参考書類
☆ 今日あまり読むことのなくなった書物から、まだ通用する部分があると考えたものを選んで翻刻しています。Unicodeに改めました。
三宅雪嶺『明治思想小史』(1913)
・・・本文入力のみ終了。ルビまだ。
大正初年という転換期に際して、明治の思想を鳥瞰した回想と論評。視野が広く、口述筆記なので読みやすい。分析も一貫性があり、最後の雑問題の章は学問、教育論だが、問題点を集約して示している。硬派らしい文章に似合わず、柔軟で根柢の確かな意見はほとんど古めかしい印象を与えない。最初の数章が圧巻で、尊王と攘夷の流れから特に明治前半期の思想を整理している。知見としては今日もはや新しいものではないかもしれず、多少勢いに乗って弾んだ語り口調の箇所も見えるが、基本的に時代と伴走した言論人ならではの動態的で生彩ある叙述は何と言っても読み応えがする。好奇心の旺盛な日本的特徴と思想をきちんとたどらない弱点も見逃していない。文体はさすがに明治時代のそれだが、各章が短く漢文体に基づいた明晰な構成で、初めに議論の方向を示しているので全体の主張がはっきりと分かる。
山路愛山『日漢文明異同論』(1907)
・・・本文入力のみ終了。ルビまだ。 「人種を論ず」「封建制と郡県制」「皇室論」「教育と学問」「文武軽重」「西学論」「基督教」の各章段から成る。百年前の著述ながら、今日的問題と通う問題意識を感じる著作である。幕府天文方の家系に出る著者の経験から、時勢の底に流れる問題系列を重要な論点に絞って概要をまとめているが、実証的な肌理は現代より見れば粗いところも見受けられ、時代のナショナリズムも垣間見られようけれども、経験的見聞を集約してこれだけの省察を廻らしていることに驚く。北村透谷との人生相渉論争ではとかく敵役に回される言論人なので、「独立評論」でしか知らなかったが、この作と共に収録された『支那思想史』も当時でさえなお深かったに違いない漢学の素養を活かして、切り込み方がユニークで読み応えがする。共に教えられるところの多い著作である。中国に対する反感を持て余しがちな今日この頃、さすがにジャーナリストの識見は闊いものだと感心させられ、多くの知識を得た。
周作人の随想、評論
・・・抄録の又抄録を載せるつもりだったが、翻訳者の著作権に顧慮してブログに大意を紹介するに止めることにした。ブログには自分の気に入ったものを自由記述としてまとめることにしたので、原文・訳文の妙を知りたい人は、当該書のページは記しておくつもりなので、国会図書館や都道府県立図書館に部分コピーなりを依頼してほしい。
左記の愛山著書に触発されて、その頃の「支那人」の一端を知り得るものはないかと考えて、魯迅の実弟の周作人のものを探して読んでみたところが、随筆の書き振りが(訳者の流暢な翻訳も相俟って)意外に面白かったので、いささかはまってしまった。なぜか良寛の実弟である橘由之の書き物を連想した。(Vol.1「日本古典文学テキスト」に翻刻。)最後の邦訳書でさえ自分が生まれる以前だったので、ほとんどすべてが稀覯書で読みにくい上に昨今の著作権法改悪の影響でまず転載できないのがいかにも残念だ。読むほどに存在感を増す巨大な知識人であることに気づかされた。