(
1)
子曰
ハク、
泰伯ハ其レ可キノミレ謂フレ至レルトレコニ也已矣。
三タビ以テ二天下ヲ一讓レルニ、
民無
シ二得テ而
稱スル一焉
ト。
子曰、泰伯其可謂至コ也已矣。三以天下讓、民無得而稱焉。
子曰はく、泰伯は其れコに至れると謂ふべきのみ。三たび天下を以て讓れるに、民得て稱する無しと。
(
2)
子曰
ハク、
恭シケレドモ而無
ケレバレ禮則
チ勞レ、
愼メドモ而無
ケレバレ禮則
チ葸ル。
勇メドモ而無
ケレバレ禮則
チ亂レ、
直ナレドモ而無
ケレバレ禮則
チ絞シ。君子
篤ケレバ二於
親ニ一、則
チ民興メ二於仁
ニ一、
故舊不
レバレ遺レ、則
チ民不
トレ偸カラ。
子曰、恭而無禮則勞、愼而無禮則葸。勇而無禮則亂、直而無禮則絞。君子篤於親、則民興於仁、故舊不遺、則民不偸。
子曰はく、恭しけれども禮無ければ則ち勞れ、愼めども禮無ければ則ち葸る。勇めども禮無ければ則ち亂れ、直なれども禮無ければ則ち絞し。君子親に篤ければ、則ち民仁に興め、故舊遺れざれば、則ち民偸からずと。
(
3)
曾子有
リレ疾、
召シテ二門弟子ヲ一曰
ク、
啓ケ二予ガ足
ヲ一、啓
ケ二予
ガ手
ヲ一。詩
ニ云
ク、
戰戰兢兢トシテ、
如クレ臨ムガ二深淵ニ一、如
シレ履ムガ二薄氷ヲ一。
今ヨリシテ而
後、
吾知
ルカナレ免レンコトヲ夫、
小子ト。
曾子有疾、召門弟子曰、啓予足、啓予手。詩云、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄氷。今而後、吾知免夫、小子。
曾子疾有り、門弟子を召して曰く、予が足を啓け、予が手を啓け。詩に云く、戰戰兢兢として、深淵に臨むがごとく、薄氷を履むがごとし。今よりして後、吾免れんことを知るかな、小子と。
(
4)
曾子有
リレ疾。
孟敬子問
フレ之
ヲ。曾子
言ヒテ曰
ク、鳥
ノ之
將ニル レ死
セント、其
ノ鳴
クヤ也
哀シ、人
ノ之將
ニル レ死
セント、其
ノ言
フヤ也善
シ。君子
ノ之所
ノレ貴ブ二乎道
ニ一者三
ツアリ。動
カシテハ二容貌ヲ一、
斯チ遠
ザカリ二暴慢ニ一矣、正
シテハ二顏色ヲ一、斯
チ近
ヅキレ信ニ矣、
出シテハ二辭氣ヲ一、斯
チ遠
ザカル二鄙倍ニ一矣。
籩豆ノ之事
ハ、
則チ有司存スト。
曾子有疾。孟敬子問之。曾子言曰、鳥之將死、其鳴也哀、人之將死、其言也善。君子之所貴乎道者三。動容貌、斯遠暴慢矣、正顏色、斯近信矣、出辭氣、斯遠鄙倍矣。籩豆之事、則有司存。
曾子疾有り。孟敬子之を問ふ。曾子言ひて曰く、鳥の將に死せんとする、其の鳴くや哀し、人の將に死せんとする、其の言ふや善し。君子の道に貴ぶ所の者三つあり。容貌を動かしては、斯ち暴慢に遠ざかり、顏色を正しては、斯ち信に近づき、辭氣を出しては、斯ち鄙倍に遠ざかる。籩豆の事は、則ち有司存すと。
(
5)
曾子曰
ク、以
テレ能ヲ問
ヒ二於不能
ニ一、以
テレ多ヲ問
ヒ二於
寡ニ一、有
レドモ若クレ無
キガ、
實ツレドモ若
クレ虚シキガ、
犯ケドモ而不
レ校サ。
昔者吾ガ友、
嘗テ從ヘリ二事
ニ於
斯ニ一矣
ト。
曾子曰、以能問於不能、以多問於寡、有若無、實若虚、犯而不校。昔者吾友、嘗從事於斯矣。
曾子曰く、能を以て不能に問ひ、多を以て寡に問ひ、有れども無きがごとく、實つれども虚しきがごとく、犯けども校さず。昔者吾が友、嘗て事に斯に從へりと。
(
6)
曾子曰
ク、
可ク三以
テ託ス二六尺ノ之
孤ヲ一、可
ク三以
テ寄ス二百里ノ之
命ヲ一、
臨ンデ二大節ニ一而不
ルハレ可
カラレ奪フ也、
君子人カ與、君子人
ナリ也
ト。
曾子曰、可以託六尺之孤、可以寄百里之命、臨大節而不可奪也、君子人與、君子人也。
曾子曰く、以て六尺の孤を託すべく、以て百里の命を寄すべく、大節に臨んで奪ふべからざるは、君子人か、君子人なりと。
(
7)
曾子曰
ク、
士ハ不
レ可カラ三以
テ不
ル二弘毅ナラ一。
任重
クシテ而
道遠
シ。
仁ヲ以
テ爲ス二己ガ任
ト一、不
ヤ二亦重
カラ一乎。死
シテ而
後已ム、不
ヤ二亦遠
カラ一乎
ト。
曾子曰、士不可以不弘毅。任重而道遠。仁以爲己任、不亦重乎。死而後已、不亦遠乎。
曾子曰く、士は以て弘毅ならざるべからず。任重くして道遠し。仁を以て己が任と爲す、亦重からずや。死して後已む、亦遠からずやと。
(
8)
子曰
ハク、
興メ二於
詩ニ一、立
チ二於
禮ニ一、
成ルト二於
樂ニ一。
子曰、興於詩、立於禮、成於樂。
子曰はく、詩に興め、禮に立ち、樂に成ると。
(
9)
子曰
ハク、
民ハ可シレ使ムレ由ラレ之
ニ、不
トレ可
カラレ使
ムレ知
ラレ之
ヲ。
子曰、民可使由之、不可使知之。
子曰はく、民は之に由らしむべし、之を知らしむべからずと。
(
10)
子曰
ハク、好
ンデレ勇メルヲ疾メバレ貧シキヲ亂ル也。人
トシテ而
不仁ナル、疾
ムコトレ之
ヲ已甚ダシケレバ亂
ル也
ト。
子曰、好勇疾貧亂也。人而不仁、疾之已甚亂也。
子曰はく、勇めるを好んで貧しきを疾めば亂る。人として不仁なる、之を疾むこと已甚だしければ亂ると。
(
11)
子曰
ハク、
如シ有
リトモ二周公ノ之
才ノ之
美一、
使メバ二驕リ且ツ吝カナラ一、其
ノ餘ハ不
ルノミレ足ラレ觀ルニ也已
ト。
子曰、如有周公之才之美、使驕且吝、其餘不足觀也已。
子曰はく、如し周公の才の美有りとも、驕り且つ吝かならしめば、其の餘は觀るに足らざるのみと。
(
12)
子曰
ハク、三年
學ビテ不
ルハレ至ラ二於
穀ニ一、不
ルナリレ易カラレ得也
ト。
子曰、三年學不至於穀、不易得也。
子曰はく、三年學びて穀に至らざるは、得易からざるなりと。
(
13)
子曰
ハク、
篤ク信
ジテ好
ミレ學
ヲ、守
リテレ死
ヲ善
クスレ道
ヲ。
危邦ニハ不
レ入ラ、
亂邦ニハ不
レ居ラ。天下
ニ有
レバレ道
則チ見ハレ、無
ケレバレ道則
チ隱ル。
邦ニ有
ルニレ道、貧
シク且ツ賤シキハ焉
恥ナリ也、邦
ニ無
キニレ道、
富ミテ且
ツ貴キハ焉恥
ナリ也
ト。
子曰、篤信好學、守死善道。危邦不入、亂邦不居。天下有道則見、無道則隱。邦有道、貧且賤焉恥也、邦無道、富且貴焉恥也。
子曰はく、篤く信じて學を好み、死を守りて道を善くす。危邦には入らず、亂邦には居らず。天下に道有れば則ち見はれ、道無ければ則ち隱る。邦に道有るに、貧しく且つ賤しきは恥なり、邦に道無きに、富みて且つ貴きは恥なりと。
(
14)
子曰
ハク、不
レバレ在ラ二其
ノ位ニ一、不
トレ謀ラ二其
ノ政ヲ一。
子曰、不在其位、不謀其政。
子曰はく、其の位に在らざれば、其の政を謀らずと。
(
15)
子曰
ハク、
師摯ノ之
始メ、
關雎ノ之
亂マデ、
洋洋乎トシテ盈テルカナレ耳ニ哉
ト。
子曰、師摯之始、關雎之亂、洋洋乎盈耳哉。
子曰はく、師摯の始め、關雎の亂まで、洋洋乎として耳に盈てるかなと。
(
16)
子曰
ハク、
狂ニシテ而不
レ直ナラ、
侗ニシテ而不
レ愿ナラ、
悾悾シテ而不
バレ信ナラ、吾不
レ知
ラレ之
ヲ矣
ト。
子曰、狂而不直、侗而不愿、悾悾而不信、吾不知之矣。
子曰はく、狂にして直ならず、侗にして愿ならず、悾悾して信ならずば、吾之を知らずと。
(
17)
子曰
ハク、學
ハ如シ不
トモレ及バ、
猶ホ恐レヨトレ失ハンコトヲレ之
ヲ。
子曰、學如不及、猶恐失之。
子曰はく、學は如し及ばずとも、猶ほ之を失はんことを恐れよと。
(
18)
子曰
ハク、
巍巍乎タリ舜禹ノ之
有ツヤ二天下
ヲ一也。
而シテ不
レ與セ焉
ト。
子曰、巍巍乎舜禹之有天下也。而不與焉。
子曰はく、巍巍乎たり舜禹の天下を有つや。而して與せずと。
(
19)
子曰
ハク、
大ナルカナ哉
堯ノ之
爲ルヤレ君也。
巍巍乎トシテ唯ダ天
ヲ爲シレ大ナリト、唯
ダ堯
則ルノミレ之
ニ。
蕩蕩乎トシテ民
モ無
シ二能ク名クル一焉。巍巍乎
トシテ其
レ有
リレ成スレ功ヲ也、
煥乎トシテ其
レ有
リト二文章一。
子曰、大哉堯之爲君也。巍巍乎唯天爲大、唯堯則之。蕩蕩乎民無能名焉。巍巍乎其有成功也、煥乎其有文章。
子曰はく、大なるかな堯の君たるや。巍巍乎として唯だ天を大なりと爲し、唯だ堯之に則るのみ。蕩蕩乎として民も能く名くる無し。巍巍乎として其れ功を成す有り、煥乎として其れ文章有りと。
(
20)
舜ハ有
リテ二臣五人
一而天下
治マル。
武王曰
ク、
予ニ有
リト二亂臣十人
一。
孔子曰
ハク、
才難シト。不
ヤ二其
レ然ラ一乎。
唐虞ノ之
際、
於テレ斯ニ爲スレ盛
ンナリト。有
レバ二婦人
一焉、九人
ノミ而已。
三-二分シテ天下
ヲ一有テルニ二其
ノ二
ヲ一、以
テ服-二事ス殷ニ一。
周ノ之
コハ、其
レ可キノミレ謂フ二至コト一也已矣
ト。
舜有臣五人而天下治。武王曰、予有亂臣十人。孔子曰、才難。不其然乎。唐虞之際、於斯爲盛。有婦人焉、九人而已。三分天下有其二、以服事殷。周之コ、其可謂至コ也已矣。
舜は臣五人有りて天下治まる。武王曰く、予に亂臣十人有りと。孔子曰はく、才難しと。其れ然らずや。唐虞の際、斯に於て盛んなりと爲す。婦人有れば、九人のみ。天下を三分して其の二を有てるに、以て殷に服事す。周のコは、其れ至コと謂ふべきのみと。
(
21)
子曰
ハク、
禹ハ吾無
シ二間然スルコト一矣。
菲クシテ二飮食ヲ一而
致シ二孝ヲ乎
鬼神ニ一、
惡シクシテ二衣服
ヲ一而致
シ二美
ヲ乎
黻冕ニ一、
卑シクシテ二宮室ヲ一而
盡セリ二力
ヲ乎
溝洫ニ一。禹
ハ吾無
シ二間然
スルコト一矣
ト。
子曰、禹吾無間然矣。菲飮食而致孝乎鬼神、惡衣服而致美乎黻冕、卑宮室而盡力乎溝洫。禹吾無間然矣。
子曰はく、禹は吾間然すること無し。飮食を菲くして孝を鬼神に致し、衣服を惡しくして美を黻冕に致し、宮室を卑しくして力を溝洫に盡せり。禹は吾間然すること無しと。
(本文はtaiju生作「漢文エディタ」原文よりHTMLに変換したものである。原文は後日利用の便を考えて、このファイルに含めてある。又、上下のコラムを連動させるスクリプトも入っている。)