言志録 (佐藤一齋) (4) 151−200/245章
 

言志録げんしろく

151)  たくはフルコトあつクシテしかうシテはつスルコトとほまことうごカスコトもの愼獨しんどくはじマルひとリテつゝしメバいへどおいせつスルものはなはしかおのヅカラあらたメテかたちコスけい。獨リテレバあたムコト、雖スル、着恪謹かつきんスト、而またヘテメテコサ一レまこと之畜フル・不ヘハ感應かんのうすみヤカナルコトすでごとクノ
畜厚而發遠。誠之動物自愼獨始。獨處能愼、雖於接物時不太着意、而人自改容起敬。獨處不能愼、雖於接物時、着意恪謹、而人亦不敢改容起敬。誠之畜・不畜、其感應之速、已如此。
畜ふること厚くして而して發すること遠し。誠の物を動かすこと愼獨より始まる。獨り處りて能く愼めば、物に接する時に於て太だ意を着けずと雖も、而も人自づから容を改めて敬を起こす。獨り處りて愼むこと能はざれば、物に接する時に於て、意を着け恪謹すと雖も、而も人も亦敢へて容を改めて敬を起こさず。誠を畜ふる・畜へはざる、其の感應の速やかなること、已に此くのごとし。

152)  おもひまことナルカいなカハすべかラク おい夢寐中むびちゆうため
意之誠否、須於夢寐中事驗之。
意の誠なるか否かは、須らく夢寐中の事に於て之を驗すべし。

153)  不コサ妄念まうねんけいナリ。妄念コラ、是まことナリ
不起妄念、是敬。妄念不起、是誠。
妄念を起こさざる、是れ敬なり。妄念の起こらざる、是れ誠なり。

154)  けいせつ-だん妄念まうねん昔人せきじんいは、敬ツト百邪ひやくじや。百邪きた、必リテ妄念これ先導せんだう
敬能截斷妄念。昔人云、敬勝百邪。百邪之來、必有妄念、爲之先導。
敬能く妄念を截斷す。昔人云く、敬は百邪に勝つと。百邪の來る、必ず妄念有りて、之が先導を爲す。

155)  一箇いつこけいしやう許多きよた聰明そうめい周公しうこういはなんぢけいセヨ百辟ひやくへききやうまたラントルヲ不享ふきやうすですで道破だうはセリ
一箇敬、生許多聰明。周公曰、汝其敬。識百辟享、亦識其有不享。既已道破。
一箇の敬は、許多の聰明を生ず。周公曰く、汝其れ敬せよ。百辟の享を識り、亦其の不享有るを識らんと。既に已に道破せり。

156)  けいスレバすなは精明せいめいナリ
敬則心精明。
敬すれば則ち心精明なり。

157)  をさメテおのれもつけい、以やすンジ、以ンズルハ百姓ひやくせいいつ天心てんしん流注りうちゆうスレバナリ
脩己以敬、以安人、以安百姓、壹是天心流注。
己を脩めて以て敬し、以て人を安んじ、以て百姓を安んずるは、壹に是れ天心流注すればなり。

158)  なかさく-にんシテけい一物いちぶつはう-ざいスルコト胸中きようちゆう。不ダニルノミナラ一レしやう聰明そうめいかへツテふさ聰明すなはわづらひナリたとヘバ 肚中とちゆうルガ一レかたまり氣血きけつメニ澁滯じふたいシテなが。即やまひナリ
勿錯認敬做一物、放在胸中。不但不生聰明、却窒聰明。即是累。譬猶肚中有塊。氣血爲之澁滯不流。即是病。
敬を錯認して一物と做し、胸中に放在すること勿れ。但だに聰明を生ぜざるのみならず、却つて聰明を窒ぐ。即ち是れ累なり。譬へば猶ほ肚中に塊有るがごとし。氣血之が爲めに澁滯して流れず。即ち是れ病なり。

159)  人カラカル明快めいくわい灑落しやらくところいたづラニしか畏縮ゐしゆく趦趄ししよセバ死敬しけいニシテ-甚事なにごと
人不可無明快灑落處。若徒爾畏縮趦趄、只是死敬、濟得甚事。
人は明快灑落の處無かるべからず。若し徒らに爾く畏縮趦趄せば、只だ是れ死敬にして、甚事を濟し得ん。

160)  胸臆きようおく虚明きよめいナレバ神光しんこう四發しはつ
胸臆虚明、神光四發。
胸臆虚明なれば、神光四發す。

161)  耳目じもく手足しゆそくすべえうしんひきヰテしたがみちびイテたいうごクヲ
耳目手足、キ要神帥而氣從、氣導而體動。
耳目手足、キて神帥ゐて氣從ひ、氣導いて體動くを要す。

162)  學者がくしやまさ とくよはひちやうげふヒテとしひろ四十しじふ以後いご之人、血氣けつきやうやおとろもつとよろシク いまし牀笫しやうし。不ンバしかしんくらかうコ業とくげふあたいたとほキヲ。不ひといましムルコトルノミナラわか之時
學者當コ與齒長、業逐年廣。四十以後之人、血氣漸衰。最宜戒牀笫。不然、神昏氣耗、コ業不能致遠。不獨戒在少之時。
學者當にコ齒と長じ、業年を逐ひて廣ぐべし。四十以後の人、血氣漸く衰ふ。最も宜しく牀笫を戒むべし。然らずんば、神昏み氣耗し、コ業遠きを致す能はず。獨り戒むること少き之時に在るのみならず。

163)  少壯せうさう人、せいかたとざシテ而不ルモすこシモラサ、亦不可ふかナリしんとどこほツテ而不グレバすなはまたみづかそこな焉。ゆゑルヲせつこれかたシト飲食いんしよく之過グルハ、人またあるいいまし滛欲いんよく之過グルハ、人ニシテうかゞがたあらズシテみづかムルニたれメン
少壯人、精固閉而不少漏、亦不可。神滯而不暢。過度則又自戕焉。故得節之爲難。飲食之過度、人亦或規之。滛欲之過度、人所不伺、且難言。非自規而誰規。
少壯の人、精固く閉して少しも漏らさざるも、亦不可なり。神滯つて暢びず。度を過ぐれば則ち又自ら戕ふ。故に節を得るを之難しと爲す。飲食の度を過ぐるは、人も亦或は之を規む。滛欲の度を過ぐるは、人の伺はざる所にして、且つ言ひ難し。自ら規むるに非ずして誰か規めん。

164)  たみあらザレバ水火すゐくわ、不生活せいくわつしかレドモ水火またふん-でき飲食いんしよく男女だんぢよ、人ゆゑ-ナリ生息せいそくスル。而レドモ飲食・男女、又しやう-がい
民非水火、不生活。而水火又能焚溺物。飲食・男女、人之所以生息。而飲食・男女、又能戕害人。
民は水火に非ざれば、生活せず。而れども水火又能く物を焚溺す。飲食・男女は、人の生息する所以なり。而れども飲食・男女、又能く人を戕害す。

165)  スニがくへう-ばうスルハ門戸もんこ人欲じんよくわたくしナリ
爲學標榜門戸、只是人欲之私。
學を爲すに門戸を標榜するは、只だ是れ人欲の私なり。

166)  いまじゆなかムルコトしやく。儒すであらいにしへ之儒、釋また之釋
今之儒、勿攻今之釋。儒既非古之儒、釋亦非古之釋。
今の儒は、今の釋を攻むること勿れ。儒既に古の儒に非ず、釋も亦古の釋に非ず。

167)  じゆニシテげん、而不レバニセおこなヒヲすなは也、まさみづかそしルナリ
儒其言、而不儒其行、則其言也、祇躬自謗。
其の言を儒にして、其の行ひを儒にせざれば、則ち其の言や、祇に躬自ら謗るなり。

168)  泰西たいせいせつすでやうやさかンナル。其窮理きゆうりおどろカスニ一レ昔者むかし程子ていし佛氏ぶつしちかキヲ一レセシガがい、而いま洋説やうせつちかキハはなはダシ於佛氏ヨリモところダス奇技滛巧きぎいんこうみちび奢侈しやし使ヲシテ一レおぼ駸駸然しん〳〵ぜんトシテルヲ於其うち學者がくしやまさ また滛聲美色いんせいびしよく
泰西之説、已有漸盛之機。其所謂窮理、足以驚人。昔者程子以佛氏之近理爲害、而今洋説之近理、甚於佛氏。且其所出奇技滛巧、導人奢侈、使人不覺駸駸然入於其中。學者當亦以滛聲美色待之。
泰西の説、已に漸く盛んなる之機有り。其の謂はゆる窮理は、以て人を驚かすに足る。昔者程子佛氏の理に近きを以て害と爲せしが、今の洋説の理に近きは、佛氏よりも甚だし。且つ其の出だす所の奇技滛巧、人を奢侈に導き、人をして駸駸然として其の中に入るを覺えざらしむ。學者當に亦滛聲美色を以て之を待つべし。

169)  窮理きゆうり二字にじもとヅク易傳えきでん-じゆんシテ道コだうとく、而をさきはつくせい、以いためいゆゑじゆ窮理きゆうりをさムルノミ而已。われ、窮理また於我もつしたがほかフヲ一レものサバ窮理きゆうりおそラクハつひ使メンモ歐邏巴〔ヨーロッパ〕じんヲシテまさ於吾ナランカ乎。
窮理二字、原本易傳。和順于道コ、而理于義、窮理盡性、以至于命。故吾儒窮理、唯理於義而已。義在於我、窮理亦在於我。若以徇外逐物爲窮理。恐終使歐邏巴人賢於吾儒。可乎。
窮理の二字、原と易傳に本づく。道コに和順して、而義を理め、理を窮め性を盡し、以て命に至る。故に吾が儒の窮理は、唯だ義を理むるのみ。義は我に在り、窮理も亦我に在り。若し外に徇ひ物を逐ふを以て窮理と爲さば、恐らくは終に歐邏巴人をして吾が儒に賢らしめんも可ならんか。

170)  われ俯仰ふぎやうシテくわん-さつ日月じつげつ昭然せうぜんトシテかゝめい星辰せいしん燦然さんぜんトシテつらあや春風しゆんぷう和燠わいくニシテくわ雨露うろ膏澤かうたくあまねもの霜雪さうせつ凜然りんぜんトシテきびシク雷霆らいてい嚇然かくぜんトシテふる山嶽さんがく安靜あんせいニシテうつ河海かかい弘量こうりやうニシテ谿壑けいがくふかクシテカラはか原野げんやひろクシテかく。而シテ元氣げんき生生せい〳〵トシテやすあつ-せん於其かんおよみな天地一大いちだい政事せいじニシテ天道てんだう至ヘしけうナリ風雨ふうう霜露さうろ、無あらザルをしヘニもの人君じんくんもつとよろシク たいこれ
吾俯仰而觀察之。日月昭然掲明、星辰燦然列文。春風和燠宣化、雨露膏澤洽物。霜雪氣凜然肅、雷霆威嚇然震。山嶽安靜不遷、河海弘量能納、谿壑深不可測。原野廣無所隱、而元氣生生不息、斡旋於其間。凡此皆天地一大政事、所謂天道至ヘ。風雨霜露、無非ヘ者、人君最宜體此。
吾俯仰して之を觀察す。日月昭然として明を掲げ、星辰燦然として文を列ぬ。春風和燠にして化を宣べ、雨露の膏澤物に洽し。霜雪は氣凜然として肅しく、雷霆は威嚇然として震ふ。山嶽安靜にして遷らず、河海弘量にして能く納る。谿壑深くして測るべからず、原野廣くして隱す所無し。而して元氣生生として息まず、其の間に斡旋す。凡そ此れ皆天地の一大政事にして、謂はゆる天道の至ヘなり。風雨霜露、ヘへに非ざる無き者、人君最も宜しく此を體すべし。

171)  天下たい、以交易かうえき、天下つと、以變易へんえきおこなハル
天下之體、以交易而立、天下之務、以變易而行。
天下の體、交易を以て立ち、天下の務め、變易を以て行はる。

172)  われルニ古今ここん人主じんしゆこゝろざしそんスル文治ぶんち創業そうげふ、不武備ぶび守成しゆせい
吾觀古今人主、志存文治者必創業、不忘武備者能守成。
吾古今の人主を觀るに、志の文治に存する者は必ず創業し、武備を忘れざる者は能く守成す。

173)  國家こくかケル食貨しよつくわ、無遺策ゐさくつら園田ゑんでん山林さんりん市廛してん、無尺地せきちクコト租入そにふ、金銀銅、並ビニキテしよ鑄出ちうしゆつ、不幾萬いくまんばかリナルヲしかレドモ當今たうこん上下しやうか困弊こんへい財帑さいどあるい奢侈しやしナリトいた
われすなはおも、不ひとレノミナラけだ治安ちあんひさシキヲ貴賤きせん人口じんこう繁衍はんえんスルニこれ二百年前にひやくねんぜんおそラクハルコトヲたゞ十數倍じふすうばいノミナラ-しよくスルこれ者、ヒテとしセドモおほキヲしやうズルこれ者、不きふいきほいたこゝしかラバすなは困弊こんへいスルコトごとキモクノまた於治安ひさシキニキモあらキニたん世道せだう者、不カラいたづラニことよセテこれ時運じうん、而不ンバアルおもんばかゆゑ-すく一レはう
また別法べつぽふ一レまうフニラフことすくなもちヰルゆるやカニしやうズルおほ、爲クストしかシテルハ制度せいどひとタビ上下しやうかまも措置そちよろシキヲ士民しみんしんズルニ一レすなはけだそんその矣。
國家於食貨、無遺策。連園田・山林・市廛、無尺地欠租入、金銀銅、並ゥ署鑄出、不知日幾萬計。而當今上下困弊、財帑不足。或謂、奢侈所致。
余則謂、不特此。葢以治安日久、貴賤人口繁衍、比ゥ二百年前、恐不翅十數倍。衣食之者、逐年増多、生之者、不給、勢必至於此。然則困弊如此、亦由於治安之久。是可賀、非可歎。但有世道之責者、不可徒諉ゥ時運、而不慮所以救之之方。
其方亦無別法可設。唯不過曰食之者寡、用之者舒、生之者衆、爲之者疾。而至於制度一立、上下守之、措置得宜、士民信之、則葢存乎其人矣。
國家の食貨に於ける、遺策無し。園田・山林・市廛を連ね、尺地の租入を欠くこと無く、金銀銅、並びに署をゥきて鑄出し、日に幾萬計りなるを知らず。而れども當今上下困弊し、財帑足らず。或は謂ふ、奢侈の致す所なりと。
余は則ち謂ふ、特り此れのみならずと。葢し治安日久しきを以て、貴賤の人口繁衍し、ゥを二百年前に比するに、恐らくは翅に十數倍のみならざることを。之に衣食する者、年を逐ひて多きを増せども、之を生ずる者、給せず、勢ひ必ず此に至る。然らば則ち困弊すること此くのごときも、亦治安の久しきに由る。是れ賀すべきも、歎ずべきに非ず。但だ世道の責め有る者、徒らにゥを時運に諉せて、之を救ふ所以の方を慮らずんばあるべからず。
其の方も亦別法の設くべき無し。唯だ之を食らふ者寡く、之を用ゐる者舒かに、之を生ずる者衆く、之を爲す者疾くすと曰ふに過ぎず。而して制度一たび立ち、上下之を守り、措置宜しきを得、士民之を信ずるに至るは、則ち葢し其の人に存す。

174)  ルモ小人せうじんまたことわりナリ也。小人小知せうち不賢者ふけんじやせうナル天地間てんちかんカラカルあるイハ堯舜げうしゆんたみ比屋ひをくシトほうすなはあやまテルコトはなはダシ唐虞たうぐいへどリト小人皡皡こう〳〵トシテ自得じとくおの〳〵やすンゼシノミぶん而已。
世有小人、亦理也。小人可小知、不賢者識其小者。是亦天地間不可無是人。或謂、堯舜之民、比屋可封。則過甚。但唐虞之世、雖有小人、皡皡自得、各安其分而已。
世に小人有るも、亦理なり。小人は小知すべく、不賢者は其の小なる者を識る。是れ亦天地間是の人無かるべからず。或いは謂ふ、堯舜の民、比屋封ずべしと。則ち過てること甚だし。但だ唐虞の世は、小人有りと雖も、皡皡として自得し、各其の分に安んぜしのみ。

175)  はうるゐあつマリものぐんカル人君じんくんくにたうものナリ也。いやしクモンバあたルコトしもおの〳〵みづかあひたうセン必然ひつぜんナリ也。ゆゑしもルハ朋黨ほうたう君道くんだうおとろヘタルナリ也、らんきざしナリ也。
方以類聚、物以群分。人君以國爲黨者也。苟不能然、下各自相黨。是必然之理也。故下有朋黨、君道之衰也、亂之兆也。
方は類を以て聚まり、物は群を以て分かる。人君は國を以て黨を爲す者なり。苟くも然ること能はずんば、下各自ら相黨せん。是れ必然の理なり。故に下朋黨有るは、君道の衰へたるなり、亂の兆なり。

176)  聰明そうめい睿知えいちニシテクスせい君師くんしナリ也。きみ誥命こうめいすなはヘ訓けうくんニシテ也。およビテくだルニ君師くんしわか焉。師道しだう之立ツハ君道くんだうおとろヘタルナリ也。ゆゑ五倫ごりんもく、有レドモ君臣くんしん而無師弟していあらキニ師弟。君臣すなは師弟ニシテ、不ズシモべつ一レもくあるいフハ朋友ほういうヌト師弟者、あやまレリ
聰明睿知、能盡其性者、君師也。君之誥命、即師之ヘ訓、無二也。迨世之下、君師判焉。師道之立、君道衰也。故五倫之目、有君臣而無師弟。非無師弟。君臣即師弟、不必別立目。或謂朋友兼師弟者、悞。
聰明睿知にして、能く其の性を盡くす者は、君師なり。君の誥命は、即ち師のヘ訓にして、二無し。世の下るに迨びて、君師判る。師道の立つは、君道の衰へたるなり。故に五倫の目、君臣有れども師弟無し。師弟無きに非ず。君臣は即ち師弟にして、必ずしも別に目を立てず。或は朋友は師弟を兼ぬと謂ふは、悞れり。

177)  をさムルくにみち、不けうやう二途にと。ヘ乾道けんだうナリ也、父道ふだうナリ也。養坤道こんだうナリ也、母道ぼだうナリ也。
爲邦之道、不出於ヘ・養二途。ヘ乾道也、父道也。養坤道也、母道也。
邦を爲むる之道、ヘ・養の二途を出でず。ヘは乾道なり、父道なり。養は坤道なり、母道なり。

178)  べんジテ虚實きよじつ強弱きやうじやくしかのちざいとう。知ツテ時世じせい習俗しふぞく、而せいほどこ
辨虚實・強弱、而後劑可投。知時世・習俗、而後政可施。
虚實・強弱を辨じて、而る後劑を投ずべし。時世・習俗を知つて、而る後政を施すべし。

179)  見一物いちぶつ是非ぜひ、而不大體だいたい之是非かかづらツテ一時いちじ利害りがい、而不さつ久遠きうゑん之利害スニせいごとケレバクノくにあやウシ矣。
見一物之是非、而不問大體之是非、抅一時之利害、而不察久遠之利害。爲政如此、國危矣。
一物の是非を見て、大體の是非を問はず、一時の利害に抅つて、久遠の利害を察せず。政を爲すに此くのごとければ、國は危うし。

180)  人情にんじやう氣機きき、不カラもつ一定いつていナルヲもといざなヒテすゝきんジテとゞムルハじゆんナリ也。みちびキテかへツテはゞおさヘテます〳〵ガルハぎやくナリ也。ゆゑ駕馭がぎよみちまさ さつ向背かうはいつまびらカニシ輕重けいちやうツテいきほヒニ-だうおうジテげき-れい使レヲシテみづかおぼゆゑ-しかレヲこれタリト
人情氣機、不可以一定求。誘之而勸、禁之而遏、順也。導之而反阻、抑之而益揚、逆也。是故駕馭之道、當察其向背、審其輕重、因勢而利導之、應機而激勵之、使其不自覺其所以然。此之爲得。
人情の氣機は、一定なるを以て求むべからず。之を誘ひて勸め、之を禁じて遏むるは、順なり。之を導きて反つて阻み、之を抑へて益揚がるは、逆なり。是の故に駕馭の道は、當に其の向背を察し、其の輕重を審かにし、勢ひに因つて之を利導し、機に應じて之を激勵し、其れをして自ら其の然る所以を覺えざらしむべし。此れを之得たりと爲す。

181)  ヒテがたしよこと、不レバみだリニクコトヲすべかラク うかゞヒテいたルヲおう
遇難處之事、不得妄動、須候幾至而應之。
處し難き之事に遇ひ、妄りに動くことを得ざれば、須らく幾の至るを候ひて之に應ずべし。

182)  しよスルニいへどリトしか一點いつてん便べんスルモノヲおのれさしはさムコトレバうちすなはおいすなは一點障碍しやうがい、理また
處事雖有理、而一點便己挾在其内、則於理即做一點障碍、理亦不暢。
事を處するに理有りと雖も、而も一點の己に便するものを挾むこと其の内に在れば、則ち理に於て即ち一點の障碍を做し、理も亦暢びず。

183)  をしフルものえうすべかラク こゝろざし聒聒くわつ〳〵トシテのぼスルハ、無えき也。
ヘ人者、要須責其志。聒聒騰口、無益也。
人をヘふる者、要は須らく其の志を責むべし。聒聒として口に騰するは、益無し。

184)  饒舌ぜうぜつときみづかおぼそこなフヲ。暴ヘバすなはいづくンゾカサン
饒舌之時、自覺氣暴。暴斯餒。安能動人。
饒舌の時、自ら氣の暴ふを覺ゆ。暴へば斯ち餒う。安んぞ能く人を動かさん。

185)  つゝしげんところすなはおこなヒヲナリ
愼言處、即愼行處。
言を愼む處は、即ち行ひを愼む處なり。

186)  昏睡こんすいシテはつスルハ囈言うはごとルニ之不ルヲ一レそん
昏睡發囈言、足見心之不存。
昏睡して囈言を發するは、心の存せざるを見るに足る。

187)  きやう言語げんぎよじよすなは言語無序者、其ルヤメルヲ也不とほカラ
病狂人言語無序。則言語無序者、其去病狂也不遠。
狂を病む人は言語序無し。則ち言語序無き者は、其の狂を病めるを去るや遠からず。

188)  人もつとまさ つゝし。口しよくツノようダシ言語げんぎよルヽ飲食いんしよくレナリ也。不ンバ於言語、足まねクニ一レわざはヒヲ、不ンバ於飲食、足いたスニ一レやまひことわざいは、禍ヒハ、病ルト
人最當愼口。口之職、兼二用。出言語、納飲食、是也。不愼於言語、足以速禍、不愼於飲食、足以致病。諺云、禍自口出、病自口入。
人は最も當に口を愼むべし。口の職は、二つの用を兼ぬ。言語を出だし、飲食を納るゝ、是れなり。言語を愼まずんば、以て禍ひを速くに足り、飲食を愼まずんば、以て病を致すに足る。諺に云く、禍ひは口より出で、病は口より入ると。

189)  おなジウスレバ軀殻くかくすなはジウスじやう聖賢せいけんまた人同ジキノミ耳。ゆゑをしへおごリヲカラちやうよくカラしたが敖欲がうよくまたしゆナリなんかならズシモだん-めつセンシテカラ、不ルノミカラ而已。大學敖惰がうだ、人徃徃わう〳〵ニシテうたがヘドモわれおもしかリト
同此軀殻、則同此情。聖賢亦與人同耳。故其訓曰、敖不可長、欲不可從。敖欲亦是情種。何必斷滅之。只是不可長、不可從而已。大學敖惰、人徃徃疑之、吾不謂然。
此の軀殻を同じうすれば、則ち此の情を同じうす。聖賢も亦人と同じきのみ。故に其の訓に曰く、敖りを長ずべからず、欲に從ふべからずと。敖欲も亦是れ情の種なり。何ぞ必ずしも之を斷滅せん。只だ是れ長ずべからずして、從ふべからざるのみ。大學の敖惰も、人は徃徃にして之を疑へども、吾は然りと謂はず。

190)  枚乘ばいじよういはほつセバキヲ一レクコトクハキニフコト、欲セバキヲ一レルコト、莫シトクハキニスコト薛文靖せつぶんせいセドモ名言めいげんわれすなはいまダシト也。およまさ 何如いかん。心いやしクモラバものおのれいへど、人まさカント、人雖鬼神きしんまさうかゞひみント
枚乘曰、欲人無聞、莫若勿言、欲人無知、莫若勿爲。薛文靖以爲名言、余則以爲未也。凡事當問其心何如。心苟有物、己雖不言、人將聞之、人雖不聞、鬼神將闞之。
枚乘曰く、人の聞くこと無きを欲せば、言ふこと勿きに若くは莫く、人の知ること無きを欲せば、爲すこと勿きに若くは莫しと。薛文靖は以て名言と爲せども、余は則ち以て未だしと爲す也。凡そ事は當に其の心の何如を問ふべし。心苟くも物有らば、己言はずと雖も、人將に之を聞かんとし、人聞かずと雖も、鬼神將に之を闞んとす。

191)  心 キテたい、不レバ於善、則不善ふぜんゆゑ游藝いうげいをし、不シテクノミニアラこれ、而またゆゑ-ナリふせ不善也。博奕ばくえきまさルモムニまたテナリレヲ
心猶火。着物爲體、不着於善、則着於不善。故游藝之訓、不特導ゥ善、而又所以防不善也。博奕之賢乎已、亦以此。
心は猶ほ火のごとし。物に着きて體を爲し、善に着かざれば、則ち不善に着く。故に游藝の訓へ、特だゥを善に導くのみにあらずして、又不善を防ぐ所以なり。博奕の已むに賢るも、亦此れを以てなり。

192)  いたげん、人不ルヲふくしかレドモ言有レバげきスルすなは、有レバフル、則、有レバさしはさ、則、有レバ便べんスル、則およ理到ルニしか人不レバ君子くんしみづかかへりミル。我シテしかのち人服セバナリこれ
理到之言、人不得不服。然其言有所激、則不服、有所強、則不服、有所挾、則不服、有所便、則不服。凡理到而人不服、君子必自反。我先服、而後人服之。
理到る之言は、人服せざるを得ず。然れども其の言激する所有れば、則ち服せず、強ふる所有れば、則ち服せず、挾む所有れば、則ち服せず、便する所有れば、則ち服せず。凡そ理到るに而も人服せざれば、君子は必ず自ら反みる。我先づ服して、而る後人之に服せばなり。

193)  ケバ善言ぜんげんすなははい中心ちゆうしん感悦かんえつシテ自然しぜんごとクノはい字、最あらはセリ フガひざシテおぼくつスト
禹聞善言、則拜。中心感悦、自然能如此。拜字、最善状。猶言膝不覺屈。
禹は善言を聞けば、則ち拜す。中心感悦して、自然に能く此くのごとし。拜の字、最も善く状せり。猶ほ膝の覺えずして屈すと言ふがごとし。

194)  人心じんしんあやふケレバすなは堯舜げうしゆん之心すなは桀紂ナリ矣。道心だうしんかすカナレバ、則桀紂之心、即堯舜ナリ矣。
人心惟危、則堯舜之心、即桀紂矣。道心惟微、則桀紂之心、即堯舜矣。
人心は惟れ危ければ、則ち堯舜の心も、即ち桀紂なり。道心は惟れ微かなれば、則ち桀紂の心も、即ち堯舜なり。

195)  水氣すゐきむすンデ魚鼈ぎよべつ。魚鼈すなはみづナリ也。しかレドモ魚鼈みづかルヲ一レ水。山氣さんきンデ禽獸きんじう、爲草木さうもく。禽獸・草木、即やまナリ也。而レドモ禽獸・草木ルヲ一レ山。地氣ちき精英せいえいンデ。人ナリ也。而レドモルヲ一レ地。
水氣結爲魚鼈。魚鼈即水也。而魚鼈不自知其爲水。山氣結爲禽獸、爲草木。禽獸・草木、即山也。而禽獸・草木不自知其爲山。地氣之精英結爲人。人即地也。而人不自知其爲地。
水氣結んで魚鼈と爲る。魚鼈は即ち水なり。而れども魚鼈は自ら其の水たるを知らず。山氣結んで禽獸と爲り、草木と爲る。禽獸・草木は、即ち山なり。而れども禽獸・草木は自ら其の山たるを知らず。地氣の精英結んで人と爲る。人は即ち地なり。而れども人は自ら其の地たるを知らず。

196)  人萬物ばんぶつ畢竟ひつきようあたはなルヽコト。人みなナリ也。今こゝろミニしばらあそバセ六合りくがふそともつ-かんセバ世界ルノミニテ世界ごとキヲ一彈丸いちだんがん黒子こくししかトハランカラおいこゝ思察しさつうち川海せんかい、有山嶽さんがく、有禽獸きんじう草木さうもく、有人類じんるゐ渾然こんぜんトシテスヲ一彈丸着想ちやくさういたレバこゝすなはトノルヲ一レ地。
人與萬物、畢竟不能離地。人物皆地也。今試且游心六合外、以俯瞰世界、但見世界如一彈丸・黒子、而人物不可見。於是思察、此中有川海、有山嶽、有禽獸・草木、有人類、渾然成此一彈丸。着想到此、乃知人物之爲地。
人と萬物と、畢竟地を離るゝこと能はず。人と物と皆地なり。今試みに且く心を六合の外に游ばせ、以て世界を俯瞰せば、但だ世界の一彈丸・黒子のごときを見るのみにて、而も人と物とは見るべからざらん。是に於て思察す、此の中に川海有り、山嶽有り、禽獸・草木有り、人類有り、渾然として此の一彈丸を成すを。着想此に到れば、乃ち人と物との地たるを知る。

197)  こゝろ靈昭れいせう不昧ふまい衆理しゆうりそなは萬事ばんじはたシテいづリシテタルこれマルヽさき、此はう-ざいセシいづレノところ。吾歿ぼつスルのち、此-宿しゆくセンレノはたシテルカ生歿せいぼつ歟、無歟。着想いたレバ凜凜りん〳〵トシテみづかおそ、吾すなはナリ也。
此心靈昭不昧、衆理具、萬事出。果何從而得之。吾生之前、此心放在何處。吾歿之後、此心歸宿何處。果有生歿歟、無歟。着想到此、凜凜自タ、吾心即天也。
此の心は靈昭不昧、衆理具り、萬事出づ。果して何れよりして之を得たる。吾が生まるゝ之前、此の心何れの處に放在せし。吾が歿する之後、此の心何れの處に歸宿せん。果して生歿有るか、無きか。着想此に到れば、凜凜として自らタる、吾が心は即ち天なり。

198)  人クル、其厚薄こうはく分數ぶんすう大抵たいてい相若あひしごとからだ大小だいせうよはひ脩短しうたんちから強弱きやうじやく、心智愚ちぐ、無おほい相遠あひとほザカルかん一處いつしよクルキヲ、皆非常ひじやうナリト。非常ナルハすなはしばらキテハごとキニ常人じやうじん、軀壽與力之分數、不カラいかトモスひといたツテハ於心之智愚、可がくへん-くわ
ゆゑひろまなつまびらカニつゝしミテおもあきラカニべんあつおこな、人ひとタビ-タビスルニおのれもゝタビ-タビスレバはたシテクセンみち矣。いへどナリトめい、雖じうナリトきやう、可やうや於非常ゐきけだことわり矣。常人じやうじんおほ遊惰いうだニシテ、不あたしかスルコトまたルカ算籌さんちう歟。
人所受之氣、其厚薄分數、大抵相若。如軀之大小、壽之脩短、力之強弱、心之智愚、無大相遠者。其間有一處受厚者、皆謂之非常。非常則姑置之。就如常人、軀與壽與力之分數、不可奈之何。獨至於心之智愚、可以學而變化之。
故博學、審問、愼思、明辨、篤行、人一十之、己百千之、果能此道矣。雖愚必明、雖柔必強、可以漸進於非常之域。葢有此理矣。但常人多遊惰、不能然。豈亦天有算籌歟。
人の受くる所の氣、其の厚薄の分數、大抵相若く。軀の大小、壽の脩短、力の強弱、心の智愚のごとき、大に相遠ざかる者無し。其の間に一處厚きを受くる者有り、皆之を非常なりと謂ふ。非常なるは則ち姑く之を置く。常人のごときに就きては、軀と壽と力との分數は、之を奈何ともすべからず。獨り心の智愚に至つては、學を以て之を變化すべし。
故に博く學び、審かに問ひ、愼みて思ひ、明らかに辨じ、篤く行ふ、人之を一たび十たびするに、己は之を百たび千たびすれば、果して此の道を能くせん。愚なりと雖も必ず明に、柔なりと雖も必ず強に、以て漸く非常の域に進むべし。葢し此の理有り。但だ常人は多く遊惰にして、然すること能はず。豈に亦天の算籌有るか。

199)  有ちゝ、其おと家聲かせいすくな矣。あるい世人せじんすゐ-そんツテおよものちやう豢養けんやうさしはさつひやう-せい傲惰がうだせいゆゑ不肖ふせうナリトまことあらキニことわりしかルニひとレノミニアラ。父すで非常ナリいづくクンゾランヤおもんばかりおよあらかじスニふせギヲ畢竟ひつきやうルナリあたかへりミルコトけだ亦有ランすう矣。こゝろミニキテごとキニ草木さうもく今年こんねん結實けつじつスルコトグレバおほキニすなは明年めいねんあきたら人家じんか乘除じやうぢよすうまたランしか
有名之父、其子不墜家聲者鮮矣。或謂、世人推尊其父、因及其子。爲子者、長於豢養、且有所挾。遂養成傲惰之性。故多不肖。固非無此理。而不獨此。父既非常人。寧不慮及豫爲之防。畢竟不能反之。葢亦有數矣。試思之、就如草木、今年結實過多、則明年必歉。人家乘除之數、亦有然者。
名有る父、其の子の家聲を墜さざる者鮮し。或は謂ふ、世人其の父を推尊し、因つて其の子に及ぶ。子たる者、豢養に長じ、且つ挾む所有り。遂に傲惰の性を養成す。故に多く不肖なりと。固に此の理無きに非ず。而るに獨り此れのみにあらず。父既に非常の人なり。寧くんぞ慮の豫め之が防ぎを爲すに及ばざらんや。畢竟之を反みること能はざるなり。葢し亦數有らん。試みに之を思へ、草木のごときに就きて、今年結實すること多きに過ぐれば、則ち明年必ず歉ず。人家乘除の數も、亦然る者有らん。

200)  人かゝレバ烖患さいくわんいの鬼神きしんはらいやしクモまことラバあるい一レしるししかレドモまどヘルナリ也。およ天來てんらいかふく、有リテすう、不カラ趨避すうひ、又不あた趨避スル。鬼神ちからたと一時いちじフモしか數之わざはヒハつひまぬかルヽコト。天必ヒヲひろたとヘバ頭目とうもくやまひうつスガこれ腹背ふくはいなんえきこれランゆえ君子くんししたがヒテせい
人罹烖患、禱鬼神以禳之。苟以誠禱、或可以得驗。然猶惑也。凡天來之禍aA有數、不可趨避、又不能趨避。鬼神之力、縦能一時禳之、而有數之禍、竟不能免。天必以他禍博之。譬如頭目之疾、移ゥ腹背。何益之有。故君子順受其正。
人烖患に罹れば、鬼神に禱り以て之を禳ふ。苟くも誠を以て禱らば、或は以て驗を得べし。然れども猶ほ惑へるなり。凡そ天來の禍bヘ、數有りて、趨避すべからず、又趨避する能はず。鬼神の力は、縦ひ能く一時之を禳ふも、而も數有る之禍ひは、竟に免るゝこと能はず。天必ず他の禍ひを以て之を博む。譬へば頭目の疾、ゥを腹背に移すがごとし。何の益か之有らん。故に君子は順ひて其の正を受く。
151
○ 畜−内に蓄積すること。
○ 愼獨−独りを慎むこと。人が見ていなくとも行いを正すこと。
○ 着意−著意に同じ。用心・注意すること。
○ 改容−姿勢を正す、真面目な顔になる。
○ 恪謹−恪も謹も「慎む」こと。

152
○ 夢寐中−睡眠中。

154
○ 截斷−切断。

155
○ 周公曰・・・−『書経』周書「洛誥」による。
○ 百辟−辟は「君」の意。諸侯。
○ 享−貢ぎ物や供え物。またそれを受納すること。不享は底意があり、受け取るべきでない献納物。
○ 既已−とうに〜してしまっている。
○ 道破−言い尽くす。「破」は強意の助字。「説破・論破・喝破・看破・読破・踏破」等。

156
○ 精明−純粋で澄明な状態。国文にも「清明」という概念語がある。

157
○ 脩己・・・−「子路問君子。子曰、脩己以敬。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安人。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安百姓。脩己以安百姓、堯舜其猶病ゥ。」(『論語』憲問篇)
○ 壹に−ひとえに。
○ 流注−注ぎ入る。

158
○ 錯認−誤って捉える、誤解する。
○ 放在−放置。
○ 累−煩い、禍、迷惑。
○ 氣血−気力と体力。生命力。東洋医学の語。

159
○ 灑落−洒落。さっぱりとしたところ。
○ 爾く−そのように。「徒爾(いたづら)に」「徒爾として」とも訓める。
○ 趦趄−たちもとおる。ぐずぐずと逡巡する。原文「趦」を「走繞+只」に作る。
○ 甚事−何事。

160
○ 虚明−虚心坦懐で明朗なこと。
○ 神光−精神の輝き。
○ 四發−四方に発揮される。

162
○ 牀笫−寝台と簀子。閨房の事。原文「牀第」。
○ 耗す−減衰する。

163
○ 不可−よくない、できない。
○ 滛欲−性欲。
○ 規む−戒める。

164
○ 焚溺−焼いたり、溺れさせたりする。
○ 男女−男女の交合。
○ 戕害−傷害。

165
○ 標榜門戸−自己流を掲げて子弟から束脩をとる。
○ 人欲之私−我欲。

166
○ 釋−仏教徒、僧侶。

167
○ 祇に−ちょうど、ただ〜だけ。
○ 躬自ら謗る−自身の愚眛を曝け出す。

168
○ 泰西−西洋。極東の対。
○ 機−機運。
○ 窮理−物事の道理を窮めること。「窮理盡情、以至於命。」(『周易』説卦伝)
○ 奇技婬巧−風変わりでいかがわしい技巧。
○ 奢侈−新たな機械技術の導入等を指すか。
○ 駸駸然−物事が馬の歩みのようにずんずん進んでいく貌。
○ 婬聲美色−目に鮮やかなだけで、人を堕落させる誘惑。そのようなものとして冷静に受け止め、自分を見失わないようにすべきことをいう。

169
○ 易傳−ここは『周易』説卦伝を指す。
○ 理于義−正しい筋道を明らかにする。
○ 命−天命。
○ 徇外逐物−我以外の外物の理を考察の対象にすること。
○ 歐邏巴人−ここはオランダ人、ポルトガル人等を指しているか。
○ 可乎−果たしてそれでよいのか。

170
○ 俯仰−上下を見る。
○ 和燠−温和。
○ 宣化−徳化を施す。万物を守り育てる。
○ 膏澤−恵み。
○ 凛然−身が引き締まるさま。
○ 不遷−どっしりとして動かない。
○ 谿壑−谷川。
○ 元氣−天上の雲気。
○ 斡旋−巡る。循環する。
○ 所謂天道至ヘ−「天道至教、聖人至コ。」(『礼記』礼器)

171
○ 交易・變易−易による事象変化の捉え方。

172
○ 文治−教育や法律で世を治めること。
○ 守成−創業の対。業を後継して基盤を固めること。

173
○ 食貨−食料と貨財。経済。
○ 遺策−失策。
○ 市廛−町家、市街。廛は宅地、店の意。
○ 尺地−わずかな土地。
○ ゥ署−役所を設置する。ここでは造幣所など。
○ 財帑−金蔵。
○ 致す−ここまでに至らせる。
○ 不特・不翅−ただ〜だけではない。
○ 繁衍−激増。
○ 逐年−毎年。
○ 世道−世を導くこと。
○ 諉す−かこつける、責任を帰する、任せる。
○ 方−方策。
○ 食之者寡・・・−「生財有大道。生之者衆、食之者寡、為之者疾、用之者舒、則財恒足矣。」(『大学』)
○ 得宜−ちょうど良いこと。適切であること。
○ 士民−士庶。官吏と平民。

174
○ 小知−理解の程度が浅い。
○ 識る−見分ける、交際する。
○ 比屋可封−どの家も領地を与えて取り立てることができる。
○ 唐虞−堯舜。
○ 皡皡−ゆったり落ち着いている貌。「王者之民、皡皡也。」(『孟子』尽心上)

175
○ 方以類聚・・・−仲間。「方以類聚、物以群分、吉凶生矣。」(『易経』繋辞上)
○ 人主−当時の「国」の意識は恐らく藩が中心だったと思われる。以下、欧陽脩「朋党論」を踏まえる。
○ 朋黨−派閥。一味。

(176
○ 聰明睿知−「唯天下至聖、為能聰明睿知、足以有臨也。」(『中庸』)。「一有聰明睿智能盡其性者出於其閨A則天必命之以為億兆之君師。」(朱熹『大學章句序』)
○ 誥命−君命。
○ 五倫之目−父子・君臣・夫婦・長幼・朋友。「父子有親、君臣有義、夫婦有別、長幼有序、朋友有信。」(『孟子』滕文公上)
○ 悞る−間違っている。

177
○ ヘ養−教え導くこと、養い育むこと。君主が人民に対する仕方を天地陰陽の観点から分けたか。
○ 乾道・・・−「乾道成男、坤道成女、乾知大始、坤作成物。」(『易経』繋辞上)

178
○ 虚實−虚証と実証。漢方で体質を診る観点。
○ 劑を投ず−投薬する。

180
○ 氣機−目に見えない働き。心の動き。
○ 駕馭−統御。操縦。〔同〕駕御
○ 向背−従うことと背くこと。付くことと離れること。
○ 爲得−うまくやったと判断する。

181
○ 幾−機。時期、機会。

182
○ 挾む−はさみ持つ、腹蔵する、介在する。
○ 做す−做は音「サ」。作の俗字。
○ 暢ぶ−意味がよく通る。〔例〕流暢・暢達。

183
○ 責其志−学ぶ者の志を追及する。問い質す。
○ 聒聒−やかましく、騒がしく。ああだこうだと。

184
○ 餒う−「餒」(音「ダイ」)は飢える、腐る意。『孟子』の訓読も「うう」だが、「くさる(あざる)」でもよいか。「敢問何謂浩然之氣。曰難言也。其為氣也、至大至剛、以直養而無害、則塞于天地之閨B其為氣也、配義與道、無是餒也。是集義所生者、非義襲而取之也。行有不慊於心、則餒矣。」(『孟子』公孫丑上)

187
○ 序−順序次第。

188
○ 速く−招く。呼び寄せる。「去順效逆、所以速禍也。」(『左伝』隠公三年)
○ 禍自口出・・・−「病從口入、患自口出。」(晋・傅玄『傅子』補遺上)

189
○ 敖不可長・・・−「敖不可長、欲不可從、志不可滿、樂不可極。」(『礼記』曲礼上)
○ 敖惰−「所謂齊其家在修其身者。人之其所親愛而辟焉、之其所賤惡而辟焉、之其所畏敬而辟焉、之其所哀矜而辟焉、之其所敖惰而辟焉。故好而知其惡、惡而知其美者、天下鮮矣。」(『大学』)。「之」は「おイテ」と訓む。「辟」は「偏」の意。荻生徂徠『大学解』に「敖惰或疑其爲凶コ。」とあるという。

190
○ 枚乘−前漢の辞賦家。引用文は「上書諫呉王」(『文選』)
○ 薛文靖−薛瑄(せつせん)。明の朱子学者。号敬軒、諡号文「清」公。『読書録』『文清公従政名言』等。

191
○ 游藝之訓−「子曰、志於道、據於コ、依於仁、游於藝。」(『論語』述而篇)
○ 博奕・・・−「子曰、飽食終日、無所用心、難哉。不有博奕者乎。爲之猶賢乎已。」(『論語』陽貨篇)

192
○ 自反−「有人於此、其待我以逆、則君子必自反也。我必不仁也、必無禮也、此物奚宜至哉。其自反而仁矣、自反而有禮矣、其逆由是也、君子必自反也。我必不忠、自反而忠矣、其逆由是也。」(『孟子』離婁下)

193
○ 禹・・・−「子路人告之以有過則喜。禹聞善言則拜。」(『孟子』公孫丑上)
○ 中心−衷心。「以力服人者、非心服也、力不贍也。以コ服人者、中心ス而誠服也。」(『孟子』公孫丑上)

194
○ 人心惟危・・・−「人心惟危、道心惟微、惟精惟一、允執厥中。」(『書経』大禹謨)

195
○ 魚鼈−魚類。
○ 禽獸−鳥獣。動物。畜生。

196
○ 黒子−ほくろ。
○ 於是−そこで、従って。

197
○ 靈昭不昧−「天命之性、粹然至善、其靈昭不昧者、此其至善之發見、是乃明コ之本體、而即所謂良知也。」(王陽明『大学問』)。「虚靈不昧、衆理具而萬事出。心外無理、心外無事。」(同『伝習録』)
○ タる−恐れ慎む。

198
○ 分數−分配量、天分。
○ 脩短−長短。
○ 不可奈之何−これをどうすることもできない。
○ 博學・・・−「博學之、審問之、慎思之、明辨之、篤行之。(中略)人一能之己百之、人十能之己千之。果能此道矣、雖愚必明、雖柔必強。」(『中庸』)
○ 豈亦−いったい〜であろうか。それともまた〜なのであろうか。ここでは疑問、疑問推量の用法。
○ 算籌−算木。籌策、はかりごと。

199
○ 家聲−一家の評判。
○ 推尊−高く評価する。尊重する。
○ 豢養−餌を与えて養うこと。ちやほやすること。
○ 挾む−腹蔵する。ここでは、内心得意になる意。
○ 遂に−そうして、その勢いで。
○ 不肖−親に似ない愚か者。「肖」は似る、似せる、象る意。
○ 數−定まった条理。運命。
○ 不歉−数が足りない。食べ物が足りない。
○ 乘除−良くなったり悪くなったりすること。増減、盛衰、功罪、毀誉等の意があるという。

200
○ 烖患−災患。
○ 趨避−逃げのがれする。
○ 不可−〜してよい(本来〜し得る)ものではない。
○ 不能−〜しようとしてできるものでもない。
○ 博之−「之をとる(うく)」とも訓むか。
○ 順ふ−天の定めに従う。「莫非命也、順受其正。」(『孟子』尽心上)

(本文はtaiju生作「漢文エディタ」原文よりHTMLに変換したものである。原文は後日利用の便を考えて、このファイルに含めてある。又、上下のコラムを連動させるスクリプトも入っている。)