言志録 (佐藤一齋) (2) 51−100/245章
 

言志録(げんしろく)

(51)  社稷(しやしよく)ノ之臣(しん)ノ所レ執(と)ル二ツアリ。曰(いは)ク、鎭定(ちんてい)、曰ク、應(おう)ズレ機(き)ニ。
社稷之臣所執二。曰、鎭定、曰、應機。
社稷の臣の執る所二つあり。曰く、鎭定、曰く、機に應ず。

(52)  家翁(かわう)今年(こんねん)齡(よはひ)八十(はちじふ)有六(いうろく)、側(かたは)ラニ多キレ人時ハ、神氣(しんき)自(おの)ヅカラ能(よ)ク壯實(さうじつ)ナレドモ、少キレ人時ハ、神氣頓(とみ)ニ衰脱(すいだつ)ス。余(われ)思フ、子孫男女(だんぢよ)ハ同體(どうたい)一氣(いつき)ナレバ、其ノ所ノ二�ョ(たの)ンデ以テ安(やす)ンズル一者固(もと)ヨリナリ也。不二但(た)ダ此(こ)レノミナラ一、老人(らうじん)ハ氣(き)乏(とぼ)シ。得(え)テ二人ノ氣ヲ一以テ助(たす)クレ之ヲ。葢(けだ)シ一時氣體(きたい)調和(てうわ)スルコト、如(ごと)キトレ服(ふく)スル二温補(をんぽ)藥味(やくみ)ヲ一一般(いつぱん)ナリ。此レ其ノ所(ゆゑ)-二以(ん)ナリ愛シテレ多キヲレ人、而不ル一レ愛セレ少キヲレ人。因(よ)ツテ悟(さと)ル、王制(わうせい)ニ八十ハ非(あら)ザレバレ人ニ不トハレ煖(だん)ナラ、葢(けだ)シ謂(い)フナリ下以テ二人氣(じんき)ヲ一煖(あたゝ)ムルヲ上レ之ヲ。非(あら)ズ二膚嫗(ふう)ノ之謂(いひ)ニ一。〔癸酉(きいう)臈月(らふげつ)小寒(せうかん)ノ節(せつ)ノ後(のち)五日(いつか)録(ろく)ス。〕
家翁今年齡八十有六、側多人時、神氣自能壯實、少人時、神氣頓衰脱。余思、子孫男女同體一氣、其所�ョ以安者固也。不但此、老人氣乏。得人氣以助之。葢一時氣體調和、如服温補藥味一般。此其所以愛多人、而不愛少人。因悟、王制八十非人不煖、葢謂以人氣煖之。非膚嫗之謂。癸酉臈月小寒節後五日録。
家翁今年齡八十有六、側らに人多き時は、神氣自づから能く壯實なれども、人少き時は、神氣頓に衰脱す。余思ふ、子孫男女は同體一氣なれば、其の�ョんで以て安んずる所の者固よりなり。但だ此れのみならず、老人は氣乏し。人の氣を得て以て之を助く。葢し一時氣體調和すること、温補藥味を服する如きと一般なり。此れ其の人多きを愛して、人少きを愛せざる所以なり。因つて悟る、王制に八十は人に非ざれば煖ならずとは、葢し人氣を以て之を煖むるを謂ふなり。膚嫗の謂に非ず。〔癸酉臈月小寒の節の後五日録す。〕

(53)  酒(さけ)ハ穀氣(こくき)ノ之精(せい)ナリ也。微(すこ)シク飲メバ可(べ)シ二以テ養(やしな)フ一レ生(せい)ヲ矣。過飲(くわいん)スレバ至(いた)ル二於狂酗(きやうく)ニ一。是(こ)レ因(よ)リレ藥(くすり)ニ發(はつ)スルナリレ病(やまひ)ヲ也。如(ごと)キ二人葠(にんじん)・附子(ぶし)・巴豆(はづ)・大黄(だいわう)ノ之類(たぐひ)ノ一、多ク服(ふく)スレバレ之ヲ、必ズ致ス二瞑眩(めんげん)ヲ一。飲ミテレ酒ヲ發スルモレ狂(きやう)ヲ、亦(また)猶(な)ホシ レ此(か)クノ。
酒穀氣之精也。微飲可以養生矣。過飲至於狂酗。是因藥發病也。如人葠・附子・巴豆・大黄之類、多服之、必致瞑眩。飲酒發狂、亦猶此。
酒は穀氣の精なり。微しく飲めば以て生を養ふべし。過飲すれば狂酗に至る。是れ藥に因り病を發するなり。人葠・附子・巴豆・大黄の類のごとき、多く之を服すれば、必ず瞑眩を致す。酒を飲みて狂を發するも、亦猶ほ此くのごとし。

(54)  酒(さけ)ノ之用(よう)ニ有リレ二ツ。鬼神(きしん)ハ有レドモレ氣(き)無シレ形(かたち)。故(ゆゑ)ニ以テ二氣ノ之精(せい)ナル者ヲ一聚(あつ)ムレ之ヲ。老人(らうじん)ハ氣衰(おとろ)フ。故ニ亦(また)以テ二氣ノ之精ナル者ヲ一養(やしな)フレ之ヲ。若キ二少壯(せうさう)ニシテ氣盛(さか)ンナル之人ノ一、祇(た)ダ足(た)ルノミ二以テ致(いた)スニ一レ病(やまひ)ヲ已。
酒之用有二。鬼神有氣無形。故以氣之精者聚之。老人氣衰。故亦以氣之精者養之。若少壯氣盛之人、祇足以致病已。
酒の用に二つ有り。鬼神は氣有れども形無し。故に氣の精なる者を以て之を聚む。老人は氣衰ふ。故に亦氣の精なる者を以て之を養ふ。少壯にして氣盛んなる之人のごとき、祇だ以て病を致すに足るのみ。

(55)  勤(きん)ノ之反(はん)ヲ爲(な)スレ惰(だ)ト。儉(けん)ノ之反ヲ爲スレ奢(しや)ト。余(われ)思(おも)フ、酒能(よ)ク使(し)メ二人ヲシテ生(しやう)ゼ一レ惰ヲ、又使ム二人ヲシテ長(ちやう)ゼ一レ奢ヲ。勤儉(きんけん)可(べ)クンバ二以テ興(おこ)ス一レ家ヲ、則チ惰奢(だしや)ハ足(た)ル二以テ亡(ほろ)ボスニ一レ家ヲ。葢(けだ)シ酒爲(な)セバナリ二之ガ媒(なかだち)ヲ一也。
勤之反爲惰。儉之反爲奢。余思、酒能使人生惰、又使人長奢。勤儉可以興家、則惰奢足以亡家。葢酒爲之媒也。
勤の反を惰と爲す。儉の反を奢と爲す。余思ふ、酒能く人をして惰を生ぜしめ、又人をして奢を長ぜしむ。勤儉以て家を興すべくんば、則ち惰奢は以て家を亡ぼすに足る。葢し酒之が媒を爲せばなり。

(56)  培(ばい)-二植(しよく)シテ草木(さうもく)ヲ一、以テ觀(み)ル二元氣(げんき)機緘(きかん)ノ之妙(めう)ヲ一。何事(なにごと)カ非(あら)ザランレ學(がく)ニ。
培植草木、以觀元氣機緘之妙。何事非學。
草木を培植して、以て元氣機緘の妙を觀る。何事か學に非ざらん。

(57)  登(のぼ)リ二山嶽(さんがく)ニ一、渉(わた)リ二川海(せんかい)ヲ一、走(はし)リ二數十(すうじふ)百里(ひやくり)ヲ一、有(あ)リテカレ時乎露宿(ろしゆく)シテ不レ寐(い)ネ、有リテカレ時乎饑(う)ウレドモ不レ食(くら)ハ、寒(こゞ)ユレドモ不レ衣(き)。此(こ)レハ是(こ)レ多少(たせう)ノ實際(じつさい)ノ學問(がくもん)ナリ。若(ごと)キ二夫(か)ノ徒爾(いたづら)ニ明窗(めいさう)淨几(じやうき)、焚(た)キレ香(かう)ヲ讀(よ)ムガ一レ書(しよ)ヲ、恐(おそ)ラクハ少(すくな)カラム二得(う)ルレ力ヲ處(ところ)一。
登山嶽、渉川海、走數十百里、有時乎露宿不寐、有時乎饑不食、寒不衣。此是多少實際學問。若夫徒爾明窗淨几、焚香讀書、恐少得力處。
山嶽に登り、川海を渉り、數十百里を走り、時有りてか露宿して寐ねず、時有りてか饑うれども食はず、寒ゆれども衣ず。此れは是れ多少の實際の學問なり。夫の徒爾に明窗淨几、香を焚き書を讀むがごとき、恐らくは力を得る處少からむ。

(58)  凡(およ)ソ所(ところ)ノレ遭(あ)フ患難(くわんなん)變故(へんこ)、屈辱(くつぢよく)讒謗(ざんばう)、拂逆(ふつぎやく)ノ之事(こと)ハ、皆(みな)天ノ之所-三以ナリ老(た)ケシムル二吾(わ)ガ才(さい)ヲ一。莫(な)シレ非(あら)ザル二砥礪(しれい)切瑳(せつさ)ノ之地(ち)ニ一。君子ハ當(まさ)ニシ レ慮(おもんばか)ル三所(ゆゑ)-二以(ん)ヲ處(しよ)スル一レ之ニ。欲(ほつ)スルハ二徒(いたづ)ラニ免(まぬか)レント一レ之ヲ不可(ふか)ナリ。
凡所遭患難變故、屈辱讒謗、拂逆之事、皆天之所以老吾才。莫非砥礪切瑳之地。君子當慮所以處之。欲徒免之不可。
凡そ遭ふ所の患難變故、屈辱讒謗、拂逆の事は、皆天の吾が才を老けしむる所以なり。砥礪切瑳の地に非ざる莫し。君子は當に之に處する所以を慮るべし。徒らに之を免れんと欲するは不可なり。

(59)  古人(こじん)ハ讀(よ)ミテレ經(けい)ヲ以テ養(やしな)ヒ二其ノ心ヲ一、離(はな)レテレ經ヲ以テ辨(わきま)フ二其ノ志(こゝろざし)ヲ一。則(すなは)チ不シテ二獨(ひと)リ讀ムヲレ經ヲ爲(な)スノミナラ一レ學(がく)ト、而離(はな)ルヽモレ經ヲ亦(また)是(こ)レ學ナリ。
古人讀經以養其心、離經以辨其志。則不獨讀經爲學、而離經亦是學。
古人は經を讀みて以て其の心を養ひ、經を離れて以て其の志を辨ふ。則ち獨り經を讀むを學と爲すのみならずして、而經を離るゝも亦是れ學なり。

(60)  一藝(いちげい)ノ之士(し)ハ、皆可(べ)シレ語(つ)グ。
一藝之士、皆可語。
一藝の士は、皆語ぐべし。

(61)  凡(およ)ソ與(と)レ人語(かた)ルニ、須(すべか)ラクシ レ�ヘ(し)ム三渠(かれ)ヲシテ説(と)カ二其ノ所ヲ一レ長(ちやう)ズル。於(おい)テレ我(われ)ニ有リレ�u(えき)。
凡與人語、須�ヘ渠説其所長。於我有�u。
凡そ人と語るに、須らく渠をして其の長ずる所を説かしむべし。我に於て�u有り。

(62)  凡(およ)ソ事於(おい)テハ二吾(わ)ガ分(ぶん)ノ不ルレ得(え)レ已(や)ムコトヲ者ニ一、當(まさ)ニシ 二爲(な)シテレ之ヲ不ル一レ避(さ)ケ。可クシテレ得(う)レ已ムコトヲ而不レバレ已メ、是(こ)レ則(すなは)チ自(よ)リレ我(われ)生(しやう)ズルナリレ事ヲ。
凡事於吾分不得已者、當爲之不避。可得已而不已、是則自我生事。
凡そ事吾が分の已むことを得ざる者に於ては、當に之を爲して避けざるべし。已むことを得べくして已めざれば、是れ則ち我より事を生ずるなり。

(63)  才(さい)ハ猶(な)ホシ レ劒(つるぎ)ノ。善(よ)ク用(もち)ヰバレ之ヲ、則(すなは)チ足(た)ル二以テ衛(まも)ルニ一レ身ヲ。不レバ二善ク用ヰ一レ之ヲ、則チ足ル二以テ殺スニ一レ身ヲ。
才猶劒。善用之、則足以衛身。不善用之、則足以殺身。
才は猶ほ劒のごとし。善く之を用ゐば、則ち以て身を衛るに足る。善く之を用ゐざれば、則ち以て身を殺すに足る。

(64)  古今(ここん)爲(な)ス二姦惡(かんあく)ヲ一之小人(せうじん)ハ、皆才(さい)過(す)グレ人ニ。若(ごと)キ二商辛(しやうしん)ノ一最(もつと)モ是(こ)レ非常(ひじやう)ノ才子(さいし)ナリ。雖(いへど)モレ有リト二微(び)・箕(き)・比干(ひかん)ノ�ゥ賢(しよけん)且(か)ツ親(しん)一、不レ能(あた)ハレ格(ただ)ス二其ノ心ヲ一、又不レ能ハレ易(か)フル二其ノ位(くらゐ)ヲ一、終(つひ)ニ以テ斃(たふ)シテ二其ノ身ヲ一、而殄(た)ツ二其ノ世(よ)ヲ一。是(こ)レ才ノ之可(べ)キモノナリレ畏(おそ)ル也。
古今爲姦惡之小人、皆才過人。若商辛最是非常才子。雖有微・箕・比干�ゥ賢且親、不能格其心、又不能易其位、終以斃其身、而殄其世。是才之可畏也。
古今姦惡を爲す之小人は、皆才人に過ぐ。商辛のごとき最も是れ非常の才子なり。微・箕・比干の�ゥ賢且つ親有りと雖も、其の心を格す能はず、又其の位を易ふる能はず、終に以て其の身を斃して、其の世を殄つ。是れ才の畏るべきものなり。

(65)  辭(じ)スルハ二爵祿(しやくろく)ヲ一易(やす)ク、不ルハレ爲(れ)二小利(せうり)ニ動カサ一難(かた)シ。
辭爵祿易、不爲小利動難。
爵祿を辭するは易く、小利に動かされざるは難し。

(66)  利(り)ナル者ハ、天下公共(こうきよう)ノ之物(もの)ナレバ、何(なん)ゾ曾(かつ)テ有ランレ惡(あく)。但(た)ダ自(みづか)ラ專(もつぱ)ラニスレバレ之ヲ、則チ爲(な)ルノミ二取ルレ怨(うら)ミヲ之道(みち)ト一耳。
利者、天下公共之物、何曾有惡。但自專之、則爲取怨之道耳。
利なる者は、天下公共の物なれば、何ぞ曾て惡有らん。但だ自ら之を專らにすれば、則ち怨みを取る之道と爲るのみ。

(67)  循(したが)ツテレ情(じやう)ニ而制(せい)シレ情ヲ、達(たつ)シテレ欲(よく)ヲ而遏(とゞ)ムレ欲ヲ。是(こ)レ禮(れい)ノ之妙用(めうよう)ナリ。
循情而制情、達欲而遏欲。是禮之妙用。
情に循つて情を制し、欲を達して欲を遏む。是れ禮の妙用なり。

(68)  治(をさ)ムルトレ己(おのれ)ヲ與(と)レ治ムルレ人、只(た)ダ是(こ)レ一套事(いつたうじ)ナルノミ。自(みづか)ラ欺(あざむ)クト與レ欺クレ人ヲ、亦(また)只ダ是レ一套事ナルノミ。
治己與治人、只是一套事。自欺與欺人、亦只是一套事。
己を治むると人を治むると、只だ是れ一套事なるのみ。自ら欺くと人を欺くと、亦只だ是れ一套事なるのみ。

(69)  凡(およ)ソ欲(ほつ)セバレ諫(いさ)メントレ人ヲ、唯(た)ダ有ルノミ三一團(いちだん)ノ誠意(せいい)ノ溢(あふ)ルヽ二於言(げん)ニ一而已。苟(いやし)クモ挾(さしはさ)マバ二一忿疾(いちふんしつ)ノ之心ヲ一、諫メ決(けつ)シテ不レ入(い)ラ。
凡欲諫人、唯有一團誠意溢於言而已。苟挾一忿疾之心、諫決不入。
凡そ人を諫めんと欲せば、唯だ一團の誠意の言に溢るゝ有るのみ。苟くも一忿疾の心を挾まば、諫め決して入らず。

(70)  聞クレ諫(いさ)メヲ者、固(もと)ヨリ須(すべか)ラクシ 二虚懷(きよくわい)ナル一。進ムルレ諫メヲ者モ、亦(また)須ラクシ 二虚懷ナル一。
聞諫者、固須虚懷。進諫者、亦須虚懷。
諫めを聞く者、固より須らく虚懷なるべし。諫めを進むる者も、亦須らく虚懷なるべし。

(71)  使(し)ムル三人ヲシテ懽欣(くわんきん)鼓舞(こぶ)シ、暢(ちやう)-二發(はつ)セ於外(そと)ニ一者ハ、樂(がく)ナリ也。使ムル三人ヲシテ整肅(せいしゆく)收斂(しうれん)シ、固(こ)-二守(しゆ)於内(うち)ニ一者ハ、禮(れい)ナリ也。使ムル三人ヲシテ寓(ぐう)セ二懽欣鼓舞ノ之意ヲ於整肅收斂ノ之中(うち)ニ一者ハ、禮樂(れいがく)合一(がふいつ)ノ之玅(めう)ナリ也。
使人懽欣鼓舞、暢發於外者、樂也。使人整肅收斂、固守於内者、禮也。使人寓懽欣鼓舞之意於整肅收斂之中者、禮樂合一之玅也。
人をして懽欣鼓舞し、外に暢發せしむる者は、樂なり。人をして整肅收斂し、内に固守せしむる者は、禮なり。人をして懽欣鼓舞の意を整肅收斂の中に寓せしむる者は、禮樂合一の玅なり。

(72)  古者(いにしへ)方相氏(はうさうし)爲(な)スレ儺(だ)ヲ。蒙(かうむ)リ二熊皮(いうひ)ヲ一、黄金(わうごん)ノ四目(しもく)、玄衣(げんい)朱裳(しゆしやう)、執(と)リレ戈(ほこ)ヲ揚(あ)ゲレ盾(たて)ヲ、帥(ひき)ヰテ二百隸(ひやくれい)ヲ一而毆(か)ルレ之(これ)ヲ。郷人(きやうじん)群然(ぐんぜん)トシテ出(い)デヽ觀(み)ル。葢(けだ)シ制(せい)スルレ禮(れい)ヲ者有リ二深意(しんい)一焉。
伏陰(ふくいん)愆陽(けんやう)、結(むす)ンデ爲(な)ス二疫氣(えつき)ヲ一。欲(ほつ)セバレ驅(く)-二除(ぢよ)セント之ヲ一、莫(な)シレ若(し)クハレ資(よ)ルニ二乎人ノ純陽(じゆんやう)ノ之氣(き)ニ一也。方相作(おこ)シテレ氣ヲ率先(そつせん)シ、百隸從(したが)フレ之ニ。状(さま)ハ若(ごと)ク二恠物(くわいぶつ)ノ一然(しか)リ。闔郷(かふきやう)ノ老少(らうせう)、雜遝(ざつたふ)シ聚(あつ)マリ觀(み)テ、且(か)ツ駭(おどろ)キ且ツ咲(わら)フ。於(おい)テレ是(こゝ)ニ陽氣(やうき)四發(しはつ)シテ、疫氣自(おの)ヅカラ能(よ)ク消散(せうさん)ス。
乃(すなは)チ至(いた)ルモ二闔郷ノ人心(じんしん)ニ一、亦(また)因(よ)リテ以(もつ)テ懽然(くわんぜん)トシテ和暢(わちやう)シ、無シ三復(ま)タ邪慝(じやとく)ノ之伏(ふく)-二鬱(うつ)スルコト於内(うち)ニ一矣。葢(けだ)シ其(そ)ノ近キ二於戲(ぎ)ニ一處(ところ)、是(こ)レ其(そ)ノ妙用(めうよう)ノ所ナルカレ在(あ)ル歟。
古者方相氏爲儺。蒙熊皮、黄金四目、玄衣朱裳、執戈揚盾、帥百隸而毆之。郷人群然出觀。葢制禮者有深意焉。
伏陰愆陽、結爲疫氣。欲驅除之、莫若資乎人純陽之氣也。方相作氣率先、百隸從之。状若恠物然。闔郷老少、雜遝聚觀、且駭且咲。於是陽氣四發、疫氣自能消散。
乃至闔郷人心、亦因以懽然和暢、無復邪慝之伏鬱於内矣。葢其近於戲處、是其妙用所在歟。
古者方相氏儺を爲す。熊皮を蒙り、黄金の四目、玄衣朱裳、戈を執り盾を揚げ、百隸を帥ゐて之を毆る。郷人群然として出でゝ觀る。葢し禮を制する者深意有り。
伏陰愆陽、結んで疫氣を爲す。之を驅除せんと欲せば、人の純陽の氣に資るに若くは莫し。方相氣を作して率先し、百隸之に從ふ。状は恠物のごとく然り。闔郷の老少、雜遝し聚まり觀て、且つ駭き且つ咲ふ。是に於て陽氣四發して、疫氣自づから能く消散す。
乃ち闔郷の人心に至るも、亦因りて以て懽然として和暢し、復た邪慝の内に伏鬱すること無し。葢し其の戲に近き處、是れ其の妙用の在る所なるか。

(73)  治安(ちあん)日(ひ)久(ひさ)シケレバ、樂事(らくじ)漸(やうや)ク多キハ、勢(いきほ)ヒ然(しか)ルナリ也。勢ヒノ之所ハレ趨(おもむ)ク、即(すなは)チ天(てん)ナリ也。如(ごと)キ二士女(しぢよ)聚(あつ)マリ懽(よろこ)ビテ、飲讌(いんえん)歌舞(かぶ)スルガ一、在在(ざい〳〵)有リレ之(これ)。固(もと)ヨリ不レ可(べ)カラ二得(え)テ而禁止(きんし)ス一。
而(しか)ルヲ乃(すなは)チ強(し)ヒテ禁(きん)ズレバレ之ヲ、則(すなは)チ人氣(じんき)抑鬱(よくうつ)シテ、無クレ所二發洩(はつえい)スル一、必ズ伏(ふく)シテ爲(な)リ二邪慝(じやとく)ト一、藏(かく)レテ爲リ二凶姦(きようかん)ト一、或(あるい)ハ結(むす)ンデ爲ル二疾疢(しつちん)毒瘡(どくさう)ト一。其ノ害(がい)殊(こと)ニ甚(はなは)ダシ。
爲(な)スレ政(まつりごと)ヲ者ハ但(た)ダ當(まさ)ニシ 下斟(しん)-二酌(しやく)シ人情(にんじやう)ヲ一、爲シ二之(これ)ガ操縱(さうじゆう)ヲ一、置(お)キ二之ヲ於禁(きん)・不禁(ふきん)ノ之間(かん)ニ一、使(し)ム中其(そ)レヲシテ不ラ上レ至(いた)ラ二於過甚(くわじん)ニ一。是(こ)レ亦(また)赴(おもむ)クレ時(とき)ニ之政ハ爲(な)スレ然(しか)リト。
治安日久、樂事漸多、勢然也。勢之所趨、即天也。如士女聚懽、飲讌歌舞、在在有之。固不可得而禁止。
而乃強禁之、則人氣抑鬱、無所發洩、必伏爲邪慝、藏爲凶姦、或結爲疾疢毒瘡。其害殊甚。
爲政者但當斟酌人情、爲之操縱、置之於禁・不禁之間、使其不至於過甚。是亦赴時之政爲然。
治安日久しければ、樂事漸く多きは、勢ひ然るなり。勢ひの趨く所は、即ち天なり。士女聚まり懽びて、飲讌歌舞するがごとき、在在之有り。固より得て禁止すべからず。
而るを乃ち強ひて之を禁ずれば、則ち人氣抑鬱して、所發洩する無く、必ず伏して邪慝と爲り、藏れて凶姦と爲り、或は結んで疾疢毒瘡と爲る。其の害殊に甚だし。
政を爲す者は但だ當に人情を斟酌し、之が操縱を爲し、之を禁・不禁の間に置き、其れをして過甚に至らざらしむべし。是れ亦時に赴く之政は然りと爲す。

(74)  人心(じんしん)ハ不レ可(べ)カラレ無カル二歡樂(くわんらく)發揚(はつやう)スル處(ところ)一。故(ゆゑ)ニ王者(わうじや)出(い)ヅレバレ世(よ)ニ必ズ作(おこ)シテレ樂(がく)ヲ以テ�ヘ(をし)ヘレ之ヲ、使(し)ム二人心ヲシテ有リレ所レ寄(よ)スル、樂(たの)シンデ不レ至(いた)ラレ滛(いん)ニ、和(やは)ラギテ不ラ一レ至ラレ流(なが)ルヽニ。風(ふう)移(うつ)リ俗(ぞく)易(かは)レドモ、斯(すなは)チ無シ二邪慝(じやとく)一矣。
當今(たうこん)所ノレ傳(つた)フル雅俗(がぞく)ノ樂部(がくぶ)ハ、雖(いへど)モ三並(なら)ビニ無シト二移(うつ)シレ風(ふう)ヲ易(か)フルレ俗(ぞく)ヲ之用(よう)一、而士君子(しくんし)爲(な)スモレ之ヲ亦(また)無シ二不可(ふか)ナルコト一。至(いた)ツテハレ如(ごと)キニ二坊間(ばうかん)ノ詞曲(しきよく)ノ一、多(おほ)ク是(こ)レ滛哇(いんあい)巴歈(はゆ)、有リテレ損(そん)無シレ�u(えき)。但(た)ダ舍(お)キテハレ此(これ)ヲ則(すなは)チ�キ鄙(とひ)ノ男女(だんぢよ)、無シレ所レ可(べ)キ二寄(よ)セテ以テ歡樂發揚ス一。
勢(いきほ)ヒ亦(また)不レ可(べ)カラレ繳(しやく)-二停(てい)ス之ヲ一。譬(たと)フレバ二�ゥ(これ)ヲ病(やまひ)ニ一、發揚(はつやう)ハ表(おもて)ナリ也、抑鬱(よくうつ)ハ裏(うら)ナリ也。擊(う)テバレ表ヲ則(すなは)チ入(い)リレ裏ニ、不ルナリレ可カラレ救(すく)フ也。不レ若(し)カ下姑(しばら)ク緩(ゆる)クシ二其ノ表ヲ一、以テ防(ふせ)グニ中内攻(ないこう)スルヲ上。此(こ)レ爲(な)スレ政(まつりごと)ヲ者ノ之所ナリレ宜(よろ)シクキ レ知ル。
人心不可無歡樂發揚處。故王者出世必作樂以�ヘ之、使人心有所寄、樂不至滛、和不至流。風移俗易、斯無邪慝矣。
當今所傳雅俗樂部、雖並無移風易俗之用、而士君子爲之亦無不可。至如坊間詞曲、多是滛哇巴歈、有損無�u。但舍此則�キ鄙男女、無所可寄以歡樂發揚。
勢亦不可繳停之。譬�ゥ病、發揚表也、抑鬱裏也。擊表則入裏、不可救也。不若姑緩其表、以防内攻。此爲政者之所宜知。
人心は歡樂發揚する處無かるべからず。故に王者世に出づれば必ず樂を作して以て之を�ヘへ、人心をして寄する所有り、樂しんで滛に至らず、和らぎて流るゝに至らざらしむ。風移り俗易れども、斯ち邪慝無し。
當今傳ふる所の雅俗の樂部は、並びに風を移し俗を易ふる之用無しと雖も、士君子之を爲すも亦不可なること無し。坊間の詞曲のごときに至つては、多く是れ滛哇巴歈、損有りて�u無し。但だ此を舍きては則ち�キ鄙の男女、寄せて以て歡樂發揚すべき所無し。
勢ひ亦之を繳停すべからず。�ゥを病に譬ふれば、發揚は表なり、抑鬱は裏なり。表を擊てば則ち裏に入り、救ふべからざるなり。姑く其の表を緩くし、以て内攻するを防ぐに若かず。此れ政を爲す者の宜しく知るべき所なり。

(75)  人君(じんくん)當(まさ)ニシ レ令(し)ム三士人(しじん)ヲシテ常ニ遊バ二射騎(しやき)刀矟(たうさく)ノ之技(ぎ)ニ一。葢(けだ)シ其ノ進退(しんたい)驅逐(くちく)、坐作(ざさ)擊刺(げきし)、使(し)ム二人ノ心身(しんしん)ヲシテ大(おほ)イニ有ラ一レ所二發揚(はつやう)スル一。是(こ)レ不二但(た)ダ治(ち)ニ不ルノミナラ一レ忘(わす)レレ亂(らん)ヲ、而又(また)於(おい)テ二政理(せいり)ニ一有リレ補(たす)ケ。
人君當令士人常遊射騎刀矟之技。葢其進退驅逐、坐作擊刺、使人心身大有所發揚。是不但治不忘亂、而又於政理有補。
人君當に士人をして常に射騎刀矟の技に遊ばしむべし。葢し其の進退驅逐、坐作擊刺、人の心身をして大いに發揚する所有らしむ。是れ但だ治に亂を忘れざるのみならず、又政理に於て補け有り。

(76)  古樂(こがく)ハ不レ能(あた)ハレ不ルレ亡(ほろ)ビ。樂(がく)ハ其レ始マル二於何(いづ)レノ世ニ一。果(はた)シテ前(さき)ンズルカ二乎聖人(せいじん)ニ一歟。若(も)シ有リテレ待ツコト二於聖人ヲ一而後(のち)ニ作(おこ)リシナラバ、則(すなは)チ其ノ人既(すで)ニ亡(な)クシテ、而其ノ所レ作(おこ)ス安(いづ)クンゾ能(よ)ク獨(ひと)リ保(たも)タン二久遠(きうゑん)ヲ一。聖人ノ�コ(とく)ノ之精英(せいえい)、發(はつ)シテ而爲(な)ルレ樂ト。乃(すなは)チ被(かうむ)ラセ二之ヲ管絃(くわんげん)ニ一、諧(とゝの)ヘ二之ヲ簫磬(せうけい)ニ一、使(し)ムルハ二聽(き)ク者ヲシテ如(ごと)クナラ一レ親(しん)-二炙(しや)スルガ之ニ一、則(すなは)チ樂ノ之感召(かんせう)、以テナリ三其ノ�コノ之寓(ぐう)スルヲ二於此(こゝ)ニ一也。
今(いま)去(さ)ルコトレ聖(せい)ヲ既(すで)ニ遠(とほ)ク、傳(つた)フルレ之ヲ者ハ非(あら)ズ二其ノ人ニ一。其ノ漸(ようや)ク致(いた)シ二差繆(さびゆう)ヲ一、遂(つひ)ニ以テ亡(ほろ)ビンモ、亦(また)理勢(りせい)ノ之必然(ひつぜん)ナリ。韶(せう)ノ之傳(つた)ハル二於齊(せい)ニ一、孔子深(ふか)ク契(かな)フ二於心(こゝろ)ニ一。然(しか)レドモ恐(おそ)ラクハ已(すで)ニ非(あら)ザルヲ二當時(たうじ)ノ之全(まつた)キニ一。但(た)ダ其ノ遺音(ゐおん)ハ尚(な)ホ足(た)レドモ二以テ感(かん)ゼシムルニ一レ人ヲ、而今(いま)亦(また)遂(つひ)ニ亡(ほろ)ベリ矣。
凡(およ)ソ天地間(てんちかん)ノ事物(じぶつ)、生者(せいしや)ハ皆死(し)シ、金鐵(きんてつ)モ亦(また)滅(めつ)ス。況(いは)ンヤ乎寓(ぐう)スル二於物(もの)ニ一者ノ、能(よ)ク保(たも)タンヤ二久遠ヲ一乎。故(ゆゑ)ニ曰(いは)ク、古樂ハ不トレ能ハレ不ルレ亡ビ。但(た)ダ至(いた)リテハ下元聲(げんせい)太和(たいわ)ノ存(そん)スル二於天地人心(じんしん)ニ一者ニ上、則(すなは)チ前(さき)ンズルモ二乎聖人ニ一、後(おく)ルヽモ二乎聖人ニ一、未(いま)ダ三嘗(かつ)テ有ラ二始終(しじゆう)スルコト一焉。是(こ)レモ亦(ま)不レ可カラレ不ルレ知ラ。
古樂不能不亡。樂其始於何世。果前乎聖人歟。若有待於聖人而後作、則其人既亡、而其所作安能獨保久遠。聖人�コ之精英、發而爲樂。乃被之管絃、諧之簫磬、使聽者如親炙之、則樂之感召、以其�コ之寓於此也。
今去聖既遠、傳之者非其人。其漸致差繆、遂以亡、亦理勢之必然。韶之傳於齊、孔子深契於心。然恐已非當時之全。但其遺音尚足以感人、而今亦遂亡矣。
凡天地間事物、生者皆死、金鐵亦滅。況乎寓於物者、能保久遠乎。故曰、古樂不能不亡。但至元聲太和存於天地人心者、則前乎聖人、後乎聖人、未嘗有始終焉。是亦不可不知。
古樂は亡びざる能はず。樂は其れ何れの世に始まる。果して聖人に前んずるか。若し聖人を待つこと有りて後に作りしならば、則ち其の人既に亡くして、其の作す所安くんぞ能く獨り久遠を保たん。聖人の�コの精英、發して樂と爲る。乃ち之を管絃に被らせ、之を簫磬に諧へ、聽く者をして之に親炙するがごとくならしむるは、則ち樂の感召、其の�コの此に寓するを以てなり。
今聖を去ること既に遠く、之を傳ふる者は其の人に非ず。其の漸く差繆を致し、遂に以て亡びんも、亦理勢の必然なり。韶の齊に傳はる、孔子深く心に契ふ。然れども恐らくは已に當時の全きに非ざるを。但だ其の遺音は尚ほ以て人を感ぜしむるに足れども、今亦遂に亡べり。
凡そ天地間の事物、生者は皆死し、金鐵も亦滅す。況んや物に寓する者の、能く久遠を保たんや。故に曰く、古樂は亡びざる能はずと。但だ元聲太和の天地人心に存する者に至りては、則ち聖人に前んずるも、聖人に後るゝも、未だ嘗て始終すること有らず。是れも亦知らざるべからず。

(77)  一氣息(いつきそく)、一笑語(いつせうご)モ、皆樂(がく)ナリ也。一擧手(いつきよしゆ)、一投足(いつとうそく)モ、皆禮(れい)ナリ也。
一氣息、一笑語、皆樂也。一擧手、一投足、皆禮也。
一氣息、一笑語も、皆樂なり。一擧手、一投足も、皆禮なり。

(78)  爲(をさ)ムルニレ邦(くに)ヲ下(くだ)スレ手ヲ處(ところ)ハ、在(あ)リ二閫内(こんない)ノ之治(ち)ニ一。禁(きん)ジ二滛靡(いんび)ヲ一、省(はぶ)クヲ二冗費(じようひ)ヲ一、最(もつと)モ爲(な)ス二先務(せんむ)ト一。
爲邦下手處、在閫内之治。禁滛靡、省冗費、最爲先務。
邦を爲むるに手を下す處は、閫内の治に在り。滛靡を禁じ、冗費を省くを、最も先務と爲す。

(80)  人君(じんくん)閨門(けいもん)ノ之事(こと)、其(そ)ノ好歹(かうたい)ハ、外人(ぐわいじん)能(よ)ク識(し)ツテ而竊(ひそ)カニ議(ぎ)スレ之ヲ。故(ゆゑ)ニ欲(ほつ)セバ下正(たゞ)シ二風俗(ふうぞく)ヲ一、敦(あつ)クセント中�ヘ化(けうくわ)ヲ上、必ズ起(お)コス二基(もとゐ)ヲ於此(こゝ)ニ一。
人君閨門之事、其好歹、外人能識而竊議之。故欲正風俗、敦�ヘ化、必起基於此。
人君閨門の事、其の好歹は、外人能く識つて竊かに之を議す。故に風俗を正し、�ヘ化を敦くせんと欲せば、必ず基を此に起こす。

(81)  人主(じんしゆ)毎(ごと)ニレ事(こと)私(ひそ)カニ自(みづか)ラ令(れい)スレバ、則(すなは)チ少(か)キ二威嚴(ゐげん)ヲ一、歴(ふ)レバ二有司(いうし)ヲ一、則チ人嚴(げん)-二憚(たん)ス之ヲ一。
人主毎事私自令、則少威嚴、歴有司、則人嚴憚之。
人主事毎に私かに自ら令すれば、則ち威嚴を少き、有司を歴れば、則ち人之を嚴憚す。

(82)  不シテレ信(しん)ゼ二大臣(だいじん)ノ之言(げん)ヲ一、而信ジ二左右(さいう)ノ之言ヲ一、不シテレ聽(き)カ二男子(だんし)ノ之言ヲ一、而聽ク二婦人(ふじん)ノ之言ヲ一。庸主(ようしゆ)ハ皆然(しか)リ。
不信大臣之言、而信左右之言、不聽男子之言、而聽婦人之言。庸主皆然。
大臣の言を信ぜずして、左右の言を信じ、男子の言を聽かずして、婦人の言を聽く。庸主は皆然り。

(83)  下情(かじやう)ハ與(と)二下事(かじ)一不レ同(おな)ジカラ。君(きみ)タルレ人ニ者(もの)、下情ニハ不レドモレ可カラレ不ルレ通(つう)ゼ、下事ニハ則(すなは)チ不二必ズシモ通ゼ一。
下情與下事不同。君人者、下情不可不通、下事則不必通。
下情は下事と同じからず。人に君たる者、下情には通ぜざるべからざれども、下事には則ち必ずしも通ぜず。

(84)  邦(くに)ニ有(あ)レバレ道(みち)、則チ君與(と)二大臣一讓(ゆづ)ルレ權(けん)ヲ。權ハ在(あ)リテ二於�コ(とく)ニ一、不レ在ラ二於力(ちから)ニ一。邦ニ無ケレバレ道、則チ君與二大臣一爭(あらそ)フレ權ヲ。權ハ在リテ二於力ニ一、不レ在ラ二於�コニ一。權在レバ二於�コニ一、則チ權ハ不レ離(はな)レ二於上(かみ)ヲ一。權在レバ二於力ニ一、則チ權ハ遂(つひ)ニ歸(き)ス二於下(しも)ニ一。故(ゆゑ)ニ爲(な)スハレ政(まつりごと)ヲ、唯(た)ダ以テスルヲ二�コ・禮(れい)ヲ一之レ爲スレ尚(たつと)シト。
邦有道、則君與大臣讓權。權在於�コ、不在於力。邦無道、則君與大臣爭權。權在於力、不在於�コ。權在於�コ、則權不離於上。權在於力、則權遂歸於下。故爲政、唯以�コ・禮之爲尚。
邦に道有れば、則ち君大臣と權を讓る。權は�コに在りて、力に在らず。邦に道無ければ、則ち君大臣と權を爭ふ。權は力に在りて、�コに在らず。權�コに在れば、則ち權は上を離れず。權力に在れば、則ち權は遂に下に歸す。故に政を爲すは、唯だ�コ・禮を以てするを之れ尚しと爲す。

(85)  大臣(だいじん)ノ弄(ろう)スルレ權(けん)ヲ之風(ふう)ハ、多ク自(よ)リシテ二幼主(えうしゆ)一而起(お)コル。權一(ひと)タビ下(しも)ニ移(うつ)レバ、不レ可カラ二復(ま)タ收(をさ)ム一。主(しゆ)年(とし)既(すで)ニ長(ちやう)ズレドモ、仍(な)ホ擁(よう)シ二虚器(きよき)ヲ一、沿襲(えんしふ)シテ成(な)セバレ風ヲ、則チ患(うれ)ヘヲ遺(のこ)ス二後昆(こうこん)ニ一矣。但(た)ダ大臣ニ得(う)レバ二其(そ)ノ人ヲ一、則(すなは)チ獨(ひと)リ無キノミ二此(こ)ノ患ヘ一耳。
大臣弄權之風、多自幼主而起。權一下移、不可復收。主年既長、仍擁虚器、沿襲成風、則患遺後昆矣。但大臣得其人、則獨無此患耳。
大臣の權を弄する之風は、多く幼主よりして起こる。權一たび下に移れば、復た收むべからず。主年既に長ずれども、仍ほ虚器を擁し、沿襲して風を成せば、則ち患へを後昆に遺す。但だ大臣に其の人を得れば、則ち獨り此の患へ無きのみ。

(86)  當(あ)タル二托孤(たくこ)ノ之任(にん)ニ一者、迨(およ)ベバ二孤主(こしゆ)年(とし)長(ちやう)ズルニ一、則(すなは)チ當(まさ)ニシ 下早ク還(かへ)シ二權(けん)ヲ於君(きみ)ニ一、以テ自(みづか)ラ退避(たいひ)ス上。乃(すなは)チ能(よ)ク君臣(くんしん)兩(ふたつなが)ラ全(まつた)カラン。伊尹(いゐん)曰(いは)ク、臣(しん)罔(な)カレト下以テ二寵利(ちようり)ヲ一居(を)ルコト中成功(せいこう)ニ上。是(こ)レ阿衡(あかう)實踐(じつせん)ノ之言(げん)ニシテ、萬世(ばんせい)大臣(だいじん)ノ之龜鑑(きかん)ナリ也。
當托孤之任者、迨孤主年長、則當早還權於君、以自退避。乃能君臣兩全。伊尹曰、臣罔以寵利居成功。是阿衡實踐之言、萬世大臣之龜鑑也。
托孤の任に當たる者、孤主年長ずるに迨べば、則ち當に早く權を君に還し、以て自ら退避すべし。乃ち能く君臣兩ら全からん。伊尹曰く、臣寵利を以て成功に居ること罔かれと。是れ阿衡實踐の言にして、萬世大臣の龜鑑なり。

(87)  着眼(ちやくがん)高ケレバ、則(すなは)チ見(み)テレ理(り)ヲ不レ岐(えだわかれ)セ。
着眼高、則見理不岐。
着眼高ければ、則ち理を見て岐せず。

(88)  當今(たうこん)ノ之毀譽(きよ)ハ不レ足(た)ラレ懼(おそ)ルヽニ、後世(こうせい)ノ之毀譽ハ可シレ懼ル。一身(いつしん)ノ之得喪(とくさう)ハ不レ足ラレ慮(おもんぱか)ルニ、子孫(しそん)ノ之得喪ハ可シレ慮ル。
當今之毀譽不足懼、後世之毀譽可懼。一身之得喪不足慮、子孫之得喪可慮。
當今の毀譽は懼るゝに足らず、後世の毀譽は懼るべし。一身の得喪は慮るに足らず、子孫の得喪は慮るべし。

(89)  已(すで)ニ死(し)スル之物(もの)ハ、爲(な)リ二方(まさ)ニ生(い)クル之用(よう)ト一、既(すで)ニ過(す)グル之事(こと)ハ、爲ル二將(まさ)ニル レ來(きた)ラント之鍳(かゞみ)ト一。
已死之物、爲方生之用、既過之事、爲將來之鍳。
已に死する之物は、方に生くる之用と爲り、既に過ぐる之事は、將に來らんとする之鍳と爲る。

(90)  人ノ看(み)ルハレ月ヲ、皆徒(いたづ)ラニ看ルナリ也。須(すべか)ラクシ 三於(おい)テレ此(こゝ)ニ想(おも)フ二宇宙(うちゆう)無窮(むきゆう)ノ之概(がい)ヲ一。〔乙亥(いつがい)中秋(ちゆうしう)、月下(げつか)ニ録(ろく)ス。〕
人看月、皆徒看也。須於此想宇宙無窮之概。〔乙亥中秋、月下録。〕
人の月を看るは、皆徒らに看るなり。須らく此に於て宇宙無窮の概を想ふべし。〔乙亥中秋、月下に録す。〕

(91)  薄(せま)リテ二於不ルニ一レ得(え)レ已(や)ムヲ、而後(のち)發(はつ)スル二�ゥ(これ)ヲ外(そと)ニ一者ハ、花(はな)ナリ也。
薄於不得已、而後發�ゥ外者、花也。
已むを得ざるに薄りて、後�ゥを外に發する者は、花なり。

(92)  布置(ふち)得(え)テレ宜(よろ)シキヲ、而不ルレ假(か)ラ二安排(あんばい)ヲ一者ハ、山川(さんせん)ナリ也。
布置得宜、而不假安排者、山川也。
布置宜しきを得て、安排を假らざる者は、山川なり。

(93)  人ハ須(すべか)ラクシ レ守(まも)ル二地道(ちだう)ヲ一。地道ハ在(あ)ルノミ三敬順(けいじゆん)ニシテ承(う)クルニ二乎天(てん)ヲ一而已。
人須守地道。地道在敬順承乎天而已。
人は須らく地道を守るべし。地道は敬順にして天を承くるに在るのみ。

(94)  耳目(じもく)口鼻(こうび)、四肢(しし)百骸(ひやくがい)、各〻(おの〳〵)守(まも)リ二其(そ)ノ職(しよく)ヲ一、以テ聽(き)ク二乎心(こゝろ)ニ一、是(こ)レ地(ち)ノ順(したが)フナリ二乎天(てん)ニ一也。
耳目口鼻、四肢百骸、各守其職、以聽乎心、是地順乎天也。
耳目口鼻、四肢百骸、各〻其の職を守り、以て心に聽く、是れ地の天に順ふなり。

(95)  使(し)ムル三地(ち)ヲシテ能(よ)ク承(う)ケ二乎天(てん)ヲ一者ハ、天使(せし)ムルナリレ之ヲ也。使(し)ムル三身(み)ヲシテ能ク順(したが)ハ二於心(こゝろ)ニ一者ハ、心使(せし)ムルナリレ之ヲ也。一(いつ)ナリ也。
使地能承乎天者、天使之也。使身能順於心者、心使之也。一也。
地をして能く天を承けしむる者は、天之を使むるなり。身をして能く心に順はしむる者は、心之を使むるなり。一なり。

(96)  擧(あ)グレバレ目(め)ヲ百物(ひやくぶつ)皆(みな)有リ二來處(らいしよ)一。軀殻(くかく)ノ出(い)ヅルモ二於父母(ふぼ)ニ一、亦(また)來處ナリ也。至(いた)リテハ二於心(こゝろ)ニ一、則(すなは)チ來處何(いづ)クニカ在(あ)ル。余(われ)曰(いは)ク、軀殻ハ是(こ)レ地氣(ちき)ノ之精英(せいえい)ニシテ、由(よ)ツテ二父母ニ一而聚(あつ)ムレ之ヲ。心ハ則チ天ナリ也。軀殻成(な)ツテ、而天寓(ぐう)スレ焉(これ)ニ。天寓シテ而知覺(ちかく)生ジ、天離(はな)レテ而知覺泯(つ)ク。心ノ之來處ハ、乃(すなは)チ太虚(たいきよ)、是(こ)レナルノミ已。
擧目百物皆有來處。軀殻出於父母、亦來處也。至於心、則來處何在。余曰、軀殻是地氣之精英、由父母而聚之。心則天也。軀殻成、而天寓焉。天寓而知覺生、天離而知覺泯。心之來處、乃太虚、是已。
目を擧ぐれば百物皆來處有り。軀殻の父母に出づるも、亦來處なり。心に至りては、則ち來處何くにか在る。余曰く、軀殻は是れ地氣の精英にして、父母に由つて之を聚む。心は則ち天なり。軀殻成つて、天焉に寓す。天寓して知覺生じ、天離れて知覺泯く。心の來處は、乃ち太虚、是れなるのみ。

(97)  氣(き)ハ有リ二自然(しぜん)ノ之形(かたち)一、結(むす)ビ-二成(な)ス體質(たいしつ)ヲ一。體質ハ乃(すなは)チ氣ノ之聚(あつ)マリナリ也。氣ハ人人(ひと〴〵)ニ異(こと)ナリ。故(ゆゑ)ニ體質モ亦(また)人人ニ不レ同(おな)ジカラ。�ゥ〻(もろ〳〵)其ノ所二思惟(しゐ)運動(うんどう)、言談(げんだん)作爲(さくゐ)スル一、各〻(おの〳〵)從(したが)ツテ二其ノ氣(き)ノ之所ニ一レ稟(う)クル而發(はつ)スレ之ヲ。
余(われ)靜(しづ)カニシテ而察(さつ)スルニレ之ヲ、小(せう)ハ則(すなは)チ字畫(じくわく)工藝(こうげい)、大(だい)ハ則チ事業(じげふ)功名(こうみやう)、其ノ迹(あと)皆如(ごと)クシテ二其ノ氣(き)ノ之所ノ一レ結(むす)ブ而爲(な)ス二之(これ)ガ形ヲ一。人ノ之少長(せうちやう)モ、從(よ)リシテ二童稚(どうち)ノ之面貌(めんばう)一而漸(やうや)ク以テ長(ちやう)ズ。既(すで)ニ其ノ長ズルヤ也、凡(およ)ソ發(はつ)スル二迹(あと)ヲ於外(そと)ニ一者、推(お)シテ二一氣(いつき)ヲ一而條(でう)-二達(たつ)スルコト之ヲ一、如(ごと)シ二體軀(たいく)ノ之長大(ちやうだい)ニシテ不ルガ一レ已(や)マ也。故(ゆゑ)ニ觀(み)ルモ下字畫工藝、若(もし)クハ其(そ)ノ所ノ二結搆(けつこう)スル一堂室(だうしつ)園池(ゑんち)ヲ上、亦(また)可(べ)シ三以テ想(さう)-二見(けん)ス其ノ人ノ氣象(きしやう)何如(いかん)ヲ一。
氣有自然之形、結成體質。體質乃氣之聚也。氣人人異。故體質亦人人不同。�ゥ其所思惟運動、言談作爲、各從其氣之所稟而發之。
余靜而察之、小則字畫工藝、大則事業功名、其迹皆如其氣之所結而爲之形。人之少長、從童稚之面貌而漸以長。既其長也、凡發迹於外者、推一氣而條達之、如體軀之長大不已也。故觀字畫工藝、若其所結搆堂室園池、亦可以想見其人氣象何如。
氣は自然の形有り、體質を結び成す。體質は乃ち氣の聚まりなり。氣は人人に異なり。故に體質も亦人人に同じからず。�ゥ〻其の思惟運動、言談作爲する所、各〻其の氣の稟くる所に從つて之を發す。
余靜かにして之を察するに、小は則ち字畫工藝、大は則ち事業功名、其の迹皆其の氣の結ぶ所のごとくして之が形を爲す。人の少長も、童稚の面貌よりして漸く以て長ず。既に其の長ずるや、凡そ迹を外に發する者、一氣を推して之を條達すること、體軀の長大にして已まざるがごとし。故に字畫工藝、若くは其の結搆する所の堂室園池を觀るも、亦以て其の人の氣象何如を想見すべし。

(98)  性(せい)ハ同(おな)ジケレドモ而質(しつ)ハ異(こと)ナリ。質ノ異ナルハ、�ヘ(をし)ヘノ之所ナリ二由(よ)リテ設(まう)クル一也。性ノ同ジキハ、�ヘヘノ之所ナリ二由リテ立ツ一也。
性同而質異。質異、�ヘ之所由設也。性同、�ヘ之所由立也。
性は同じけれども質は異なり。質の異なるは、�ヘへのよりて設くる所なり。性の同じきは、�ヘへのよりて立つ所なり。

(99)  人君(じんくん)ハ以(もつ)テ二社稷(しやしよく)ヲ一爲(な)スレ重(おも)シト。而(しか)レドモ人倫(じんりん)ハ殊(こと)ニ重シ二於社稷ヨリモ一。社稷ハ可クトモレ棄(す)ツ、人倫ハ不レ可カラレ棄ツ。
人君以社稷爲重。而人倫殊重於社稷。社稷可棄、人倫不可棄。
人君は社稷を以て重しと爲す。而れども人倫は殊に社稷よりも重し。社稷は棄つべくとも、人倫は棄つべからず。

(100)  或(あるい)ハ疑(うたが)フ、成王(せいわう)・周公(しうこう)ノ征(せい)スルハ二三監(さんかん)ヲ一、非(あら)ズヤ下重ンジ二社稷ヲ一輕(かろ)ンズルニ中人倫ヲ上乎ト。余(われ)謂(おも)フ、不レ然(しか)ラ。三叔(さんしゆく)助ケテ二武庚(ぶかう)ヲ一以テ叛(そむ)ク。是(こ)レハ則(すなは)チ叛キシナリ二於文・武(ぶんぶ)ニ一矣。爲(た)ル二成王・周公一者(もの)、不シテ下爲(た)メニ二文・武ノ一討(のぞ)カ中其ノ罪(つみ)ヲ上、而故(ことさ)ラニ縱(ゆる)シテレ之ヲ以テ黨(くみ)センヤ二其ノ惡(あく)ニ一乎。即(すなは)チ仍(な)ホ是(こ)レ重ンジタルナリ二人倫ヲ一矣ト。
或疑、成王・周公征三監、非重社稷輕人倫乎。余謂、不然。三叔助武庚以叛。是則叛於文・武矣。爲成王・周公者、不爲文・武討其罪、而故縱之以黨其惡乎。即仍是重人倫矣。
或は疑ふ、成王・周公の三監を征するは、社稷を重んじ人倫を輕んずるに非ずやと。余謂ふ、然らず。三叔武庚を助けて以て叛く。是れは則ち文・武に叛きしなり。成王・周公たる者、文・武の爲めに其の罪を討かずして、故らに之を縱して以て其の惡に黨せんや。即ち仍ほ是れ人倫を重んじたるなりと。
(51)
○ 社稷之臣−国家に仕える臣下。ここは幕府の重臣を指すか。
○ 應機−臨機応変の処置をとる。

(52)
○ 同體一氣−血縁で気心が通じ合うこと。
○ 温補藥味−冷えを防ぐ薬方や食餌を摂ること。
○ 一般−同様、同じ。
○ 王制−『禮記』王制篇。「五十始衰、六十非肉不飽、七十非帛不煖、八十非人不煖、九十雖得人不煖矣。」
○ 膚嫗−膚を温めること。「煦嫗」の用例もある。

(53)
○ 狂酗−乱酔、酒乱。
○ 瞑眩−音「メンゲン」。眩暈(めまい)。

(56)
○ 機緘−機運の変化消長の働き。生育の仕組みというほどの意。

(57)
○ 多少の−多くの。

(58)
○ 變故−変事。
○ 拂逆−ままならぬこと。
○ 老く−老熟する。
○ 砥礪−砥ぎ磨く。努め励む。

(60)
○ 語ぐ−告げ知らせる、教戒する。次の章に「語(かた)る」の例があり、そのようにも読める。

(64)
○ 商辛−殷の帝辛、紂王。
○ 微・箕・比干−微子・箕子・比干。いずれも紂王の身内。
○ 殄−尽くす、絶つ、滅ぼす等と読める。

(65)
○ 爵祿−爵位と俸禄。

(67)
○ 遏む−防ぎ止める。防遏(ぼうあつ)する。

(68)
○ 自欺欺人−「欺人亦是自欺、此又是自欺之甚者。」(『朱子語類』第十八)、「夫妄言者、爲自欺身、亦欺他人。」(『法苑珠林』巻七五)。
○ 一套事−一揃いの事柄。本質的に同じもの。

(69)
○ 不入−不容(容れられず)か。

(70)
○ 挾−介在する。持つ。
○ 忿疾−怒ったり憎んだりする気持ち。

(70)
○ 虚懷−虚心坦懐。

(71)
○ 暢發−のびのびと発揮する。
○ 收斂−引き締まる。

(72)
○ 方相氏−「掌蒙熊皮、黄金四目、玄衣朱裳、執戈揚盾、帥百隸而時難、以索室驅疫。」(『周礼』夏官司馬)
○ 儺−前記「時(こ)れ難(だ)す」の「難」(元来の音は「ダン」)に通じ、鬼を遣(や)らう意。
○ 玄衣朱裳−黒の上衣と赤の裳裾。
○ 百隸−大勢の僕(しもべ)。
○ 毆る−駆る。打つ。
○ 伏陰愆陽−隠れていた陰の気と誤った陽の気。
○ 資る−頼る。
○ 闔郷−村中。
○ 雜遝−雑踏。
○ 四發−四方に起こる。
○ 和暢−和らいでのんびりすること。
○ 邪慝−邪気が内に潜むこと。
○ 伏鬱−隠れて結ぼおる、内に籠もって発散しないこと。
○ 戲−遊び。子供騙し。

(73)
○ 飲讌−酒盛り。
○ 在在−在在所所。到る所。
○ 發洩−発散。
○ 疾疢−熱病、疾病。
○ 毒瘡−悪性の腫れ物。
○ 赴時−時世に即応する。

(74)
○ 滛−淫らなこと。
○ 坊間−市街。民間。
○ 滛哇−淫らな音楽。
○ 巴歈−巴蜀の歌曲。俗曲を指したか。
○ 繳停−矰繳(そうしゃく)は「いぐるみ」。鳥を矰で射て身動きさせないように止めることか。
○ 姑−とりあえず。差し当たって。

(75)
○ 刀矟−刀と戟。戟は薙刀等か。
○ 坐作−座ることと立つこと。立居振舞。
○ 治不忘亂−「治にいて亂を忘れず」(「治而不忘亂」〔『周易』繋辭下伝〕)の心構え。
○ 補−補い。助け。

(76)
○ 親炙−親しく接すること。
○ 感召−感動を呼ぶこと。
○ 差繆−誤り。食い違い。
○ 韶之傳於齊−「子在齊聞韶、三月不知肉之味。曰、不圖爲樂之至於斯也。」(『論語』述而篇)。「子謂韶、盡美矣、又盡善也。」(同・八佾篇)
○ 寓於物者−物に宿るもの。楽器に依存する音楽のこと。
○ 元聲太和−未詳。天地人心にもと備わった諧調、天地自然の音楽というほどの意か。
○ 始終−始めと終わり。

(78)
○ 謙冲−謙譲で虚心坦懐。冲には「冲静」の語がある。

(79)
○ 閫内−宮中、城内。「閫」は宮城の意。

(80)
○ 閨門−家庭内。奥向き。
○ 好歹−善し悪し。
○ 外人−他人。部外者。

(81)
○ 嚴憚−恐れ憚る。「厳」も憚る意。

(82)
○ 左右−側近。近臣。
○ 聽く−聞き入れる。
○ 庸主−凡庸な人主。

(83)
○ 下情−世間の事情。
○ 下事−世間的用事。

(84)
○ 權を讓る−權力を譲り合う。分担して政治を行う。

(85)
○ 仍ほ−依然として。
○ 虚器を擁す−実権を持たない地位に甘んじる。
○ 沿襲−古い慣行に従う。
○ 後昆−後世。後裔、子孫。

(86)
○ 托孤之任−幼君の摂政を務めること。
○ 成功−立身して獲得した地位。
○ 阿衡−宰相。殷の宰相であった伊尹を指す。

(87)
○ 岐−決断に迷う。判断がぶれる。

(88)
○ 得喪−利害得失。

(89)
○ 方に−現に。ちょうど今。
○ 鍳−手本。

(90)
○ 概−趣。態様。
○ 乙亥−文化一二年。一斎四四歳。

(93)
○ 地道−「順於天、地道也。」(『京氏易傳』巽卦)

(94)
○ 職−職分。割り当てられた働き。
○ 聽く−聞き入れ、従う。

(95)
○ 一也−同じものである。

(96)
○ 來處−因って来たるところ。原因。
○ 軀殻−体。心を抜いた身体そのもの。
○ 泯−尽く、滅ぶ。
○ 太虚−虚空。気の始原。宇宙の根源。『荘子』外篇に出る。

(97)
○ 稟く−天から受け取る。天命を承けて生じる。
○ 字畫−文字の書き方。
○ 少長−少きより老成に至るまで。
○ 條達−伸びる。暢達。
○ 想見−想像する。

(98)
○ 所由設−施すゆえん。
○ 所由立−成り立つゆえん。

(99)
○ 社稷−国家。

(100)
○ 成王・周公−周の武王の弟で、成王を輔弼した。
○ 三監−武王が紂王の子の武庚を立てて三人の弟に監督させたが、武王の死後、叛逆したので周公が成王を助けて討伐した。
○ 三叔−三監を成王から見た語。

(本文はtaiju生作「漢文エディタ」原文よりHTMLに変換したものである。原文は後日利用の便を考えて、このファイルに含めてある。又、上下のコラムを連動させるスクリプトも入っている。)