言志録 (佐藤一齋) (2) 51−100/245章
 

言志録げんしろく

51)  社稷しやしよくしんツアリいは鎭定ちんてい、曰おう
社稷之臣所執二。曰、鎭定、曰、應機。
社稷の臣の執る所二つあり。曰く、鎭定、曰く、機に應ず。

52)  家翁かわう今年こんねんよはひ八十はちじふ有六いうろくかたはラニ人時神氣しんきおのヅカラ壯實さうじつナレドモ、少人時、神氣とみ衰脱すいだつわれ、子孫男女だんぢよ同體どうたい一氣いつきナレバ、其たのンデやすンズルもとヨリナリ也。不レノミナラ老人らうじんとぼたすけだ一時氣體きたい調和てうわスルコトごとキトふくスル温補をんぽ藥味やくみ一般いつぱんナリ。此ゆゑ-ナリシテキヲ人、而不一レキヲ人。ツテさと王制わうせい八十あらザレバトハだんナラけだフナリ人氣じんきあたゝムルヲあら膚嫗ふういひ。〔癸酉きいう臈月らふげつ小寒せうかんせつのち五日いつかろく
家翁今年齡八十有六、側多人時、神氣自能壯實、少人時、神氣頓衰脱。余思、子孫男女同體一氣、其所ョ以安者固也。不但此、老人氣乏。得人氣以助之。葢一時氣體調和、如服温補藥味一般。此其所以愛多人、而不愛少人。因悟、王制八十非人不煖、葢謂以人氣煖之。非膚嫗之謂。癸酉臈月小寒節後五日録。
家翁今年齡八十有六、側らに人多き時は、神氣自づから能く壯實なれども、人少き時は、神氣頓に衰脱す。余思ふ、子孫男女は同體一氣なれば、其のョんで以て安んずる所の者固よりなり。但だ此れのみならず、老人は氣乏し。人の氣を得て以て之を助く。葢し一時氣體調和すること、温補藥味を服する如きと一般なり。此れ其の人多きを愛して、人少きを愛せざる所以なり。因つて悟る、王制に八十は人に非ざれば煖ならずとは、葢し人氣を以て之を煖むるを謂ふなり。膚嫗の謂に非ず。〔癸酉臈月小寒の節の後五日録す。〕

53)  さけ穀氣こくきせいナリ也。すこシクメバやしな一レせい矣。過飲くわいんスレバいた狂酗きやうくくすりはつスルナリやまひ也。ごと人葠にんじん附子ぶし巴豆はづ大黄だいわうたぐひ、多ふくスレバ、必瞑眩めんげん。飲ミテスルモきやうまた クノ
酒穀氣之精也。微飲可以養生矣。過飲至於狂酗。是因藥發病也。如人葠・附子・巴豆・大黄之類、多服之、必致瞑眩。飲酒發狂、亦猶此。
酒は穀氣の精なり。微しく飲めば以て生を養ふべし。過飲すれば狂酗に至る。是れ藥に因り病を發するなり。人葠・附子・巴豆・大黄の類のごとき、多く之を服すれば、必ず瞑眩を致す。酒を飲みて狂を發するも、亦猶ほ此くのごとし。

54)  さけよう鬼神きしんレドモかたちゆゑせいナルあつ老人らうじんおとろ。故また之精ナルやしな。若少壯せうさうニシテさかンナル之人ルノミいたスニ一レやまひ已。
酒之用有二。鬼神有氣無形。故以氣之精者聚之。老人氣衰。故亦以氣之精者養之。若少壯氣盛之人、祇足以致病已。
酒の用に二つ有り。鬼神は氣有れども形無し。故に氣の精なる者を以て之を聚む。老人は氣衰ふ。故に亦氣の精なる者を以て之を養ふ。少壯にして氣盛んなる之人のごとき、祇だ以て病を致すに足るのみ。

55)  きんはんけん之反しやわれおも、酒使ヲシテしやう一レ、又使ヲシテちやう一レ勤儉きんけんクンバおこ一レ、則惰奢だしやほろボスニ一レけだセバナリなかだち也。
勤之反爲惰。儉之反爲奢。余思、酒能使人生惰、又使人長奢。勤儉可以興家、則惰奢足以亡家。葢酒爲之媒也。
勤の反を惰と爲す。儉の反を奢と爲す。余思ふ、酒能く人をして惰を生ぜしめ、又人をして奢を長ぜしむ。勤儉以て家を興すべくんば、則ち惰奢は以て家を亡ぼすに足る。葢し酒之が媒を爲せばなり。

56)  ばい-しよくシテ草木さうもく、以元氣げんき機緘きかんめう何事なにごとあらザランがく
培植草木、以觀元氣機緘之妙。何事非學。
草木を培植して、以て元氣機緘の妙を觀る。何事か學に非ざらん。

57)  のぼ山嶽さんがくわた川海せんかいはし數十すうじふ百里ひやくりリテカ時乎露宿ろしゆくシテ、有リテカ時乎ウレドモくらこゞユレドモレハ多少たせう實際じつさい學問がくもんナリごと徒爾いたづら明窗めいさう淨几じやうきかうムガ一レしよおそラクハすくなカラムところ
登山嶽、渉川海、走數十百里、有時乎露宿不寐、有時乎饑不食、寒不衣。此是多少實際學問。若夫徒爾明窗淨几、焚香讀書、恐少得力處。
山嶽に登り、川海を渉り、數十百里を走り、時有りてか露宿して寐ねず、時有りてか饑うれども食はず、寒ゆれども衣ず。此れは是れ多少の實際の學問なり。夫の徒爾に明窗淨几、香を焚き書を讀むがごとき、恐らくは力を得る處少からむ。

58)  およところ患難くわんなん變故へんこ屈辱くつぢよく讒謗ざんばう拂逆ふつぎやくことみな之所-ナリケシムルさいあらザル砥礪しれい切瑳せつさ。君子まさ おもんばかゆゑ-しよスル一レほつスルハいたづラニまぬかレント一レ不可ふかナリ
凡所遭患難變故、屈辱讒謗、拂逆之事、皆天之所以老吾才。莫非砥礪切瑳之地。君子當慮所以處之。欲徒免之不可。
凡そ遭ふ所の患難變故、屈辱讒謗、拂逆の事は、皆天の吾が才を老けしむる所以なり。砥礪切瑳の地に非ざる莫し。君子は當に之に處する所以を慮るべし。徒らに之を免れんと欲するは不可なり。

59)  古人こじんミテけいやしなはなレテわきまこゝろざしすなはシテひとムヲスノミナラ一レがく、而はなルヽモまたナリ
古人讀經以養其心、離經以辨其志。則不獨讀經爲學、而離經亦是學。
古人は經を讀みて以て其の心を養ひ、經を離れて以て其の志を辨ふ。則ち獨り經を讀むを學と爲すのみならずして、而經を離るゝも亦是れ學なり。

60)  一藝いちげい、皆
一藝之士、皆可語。
一藝の士は、皆語ぐべし。

61)  およかたルニすべかラク かれヲシテ一レちやうズルおいわれuえき
凡與人語、須ヘ渠説其所長。於我有u。
凡そ人と語るに、須らく渠をして其の長ずる所を説かしむべし。我に於てu有り。

62)  およおいテハぶんムコトヲまさ シテ一レ。可クシテムコトヲ而不レバすなはわれしやうズルナリ
凡事於吾分不得已者、當爲之不避。可得已而不已、是則自我生事。
凡そ事吾が分の已むことを得ざる者に於ては、當に之を爲して避けざるべし。已むことを得べくして已めざれば、是れ則ち我より事を生ずるなり。

63)  さい つるぎもちヰバすなはまもルニ一レ。不レバ一レ、則スニ一レ
才猶劒。善用之、則足以衛身。不善用之、則足以殺身。
才は猶ほ劒のごとし。善く之を用ゐば、則ち以て身を衛るに足る。善く之を用ゐざれば、則ち以て身を殺すに足る。

64)  古今ここん姦惡かんあく小人せうじん、皆さいごと商辛しやうしんもつと非常ひじやう才子さいしナリいへどリト比干ひかんゥ賢しよけんしん、不あたただ、又不フルくらゐつひたふシテ、而キモノナリおそ也。
古今爲姦惡之小人、皆才過人。若商辛最是非常才子。雖有微・箕・比干ゥ賢且親、不能格其心、又不能易其位、終以斃其身、而殄其世。是才之可畏也。
古今姦惡を爲す之小人は、皆才人に過ぐ。商辛のごとき最も是れ非常の才子なり。微・箕・比干のゥ賢且つ親有りと雖も、其の心を格す能はず、又其の位を易ふる能はず、終に以て其の身を斃して、其の世を殄つ。是れ才の畏るべきものなり。

65)  スルハ爵祿しやくろくやす、不ルハ小利せうりカサかた
辭爵祿易、不爲小利動難。
爵祿を辭するは易く、小利に動かされざるは難し。

66)  ナル、天下公共こうきようものナレバなんかつランあくみづかもつぱラニスレバ、則ルノミうらミヲみち耳。
利者、天下公共之物、何曾有惡。但自專之、則爲取怨之道耳。
利なる者は、天下公共の物なれば、何ぞ曾て惡有らん。但だ自ら之を專らにすれば、則ち怨みを取る之道と爲るのみ。

67)  したがツテじやうせいたつシテよくとゞれい妙用めうようナリ
循情而制情、達欲而遏欲。是禮之妙用。
情に循つて情を制し、欲を達して欲を遏む。是れ禮の妙用なり。

68)  をさムルトおのれムル人、一套事いつたうじナルノミみづかあざむクトまた一套事ナルノミ
治己與治人、只是一套事。自欺與欺人、亦只是一套事。
己を治むると人を治むると、只だ是れ一套事なるのみ。自ら欺くと人を欺くと、亦只だ是れ一套事なるのみ。

69)  およほつセバいさメントルノミ一團いちだん誠意せいいあふルヽげん而已。いやしクモさしはさマバ一忿疾いちふんしつ之心、諫けつシテ
凡欲諫人、唯有一團誠意溢於言而已。苟挾一忿疾之心、諫決不入。
凡そ人を諫めんと欲せば、唯だ一團の誠意の言に溢るゝ有るのみ。苟くも一忿疾の心を挾まば、諫め決して入らず。

70)  聞いさメヲ者、もとヨリすべかラク 虚懷きよくわいナル。進ムルメヲまたラク 虚懷ナル
聞諫者、固須虚懷。進諫者、亦須虚懷。
諫めを聞く者、固より須らく虚懷なるべし。諫めを進むる者も、亦須らく虚懷なるべし。

71)  使ムルヲシテ懽欣くわんきん鼓舞こぶちやう-はつそとがくナリ也。使ムルヲシテ整肅せいしゆく收斂しうれん-しゆうちれいナリ也。使ムルヲシテぐう懽欣鼓舞之意於整肅收斂うち禮樂れいがく合一がふいつめうナリ也。
使人懽欣鼓舞、暢發於外者、樂也。使人整肅收斂、固守於内者、禮也。使人寓懽欣鼓舞之意於整肅收斂之中者、禮樂合一之玅也。
人をして懽欣鼓舞し、外に暢發せしむる者は、樂なり。人をして整肅收斂し、内に固守せしむる者は、禮なり。人をして懽欣鼓舞の意を整肅收斂の中に寓せしむる者は、禮樂合一の玅なり。

72)  古者いにしへ方相氏はうさうしかうむ熊皮いうひ黄金わうごん四目しもく玄衣げんい朱裳しゆしやうほこたてひきヰテ百隸ひやくれいこれ郷人きやうじん群然ぐんぜんトシテデヽけだせいスルれい者有深意しんい焉。
伏陰ふくいん愆陽けんやうむすンデ疫氣えつきほつセバ-ぢよセントクハルニ乎人純陽じゆんやう也。方相おこシテ率先そつせん、百隸したがさまごと恠物くわいぶつしか闔郷かふきやう老少らうせう雜遝ざつたふあつマリおどろわらおいこゝ陽氣やうき四發しはつシテ、疫氣おのヅカラ消散せうさん
すなはいたルモ闔郷人心じんしんまたリテもつ懽然くわんぜんトシテ和暢わちやう、無邪慝じやとくふく-うつスルコトうち矣。けだところ妙用めうようナルカ歟。
古者方相氏爲儺。蒙熊皮、黄金四目、玄衣朱裳、執戈揚盾、帥百隸而毆之。郷人群然出觀。葢制禮者有深意焉。
伏陰愆陽、結爲疫氣。欲驅除之、莫若資乎人純陽之氣也。方相作氣率先、百隸從之。状若恠物然。闔郷老少、雜遝聚觀、且駭且咲。於是陽氣四發、疫氣自能消散。
乃至闔郷人心、亦因以懽然和暢、無復邪慝之伏鬱於内矣。葢其近於戲處、是其妙用所在歟。
古者方相氏儺を爲す。熊皮を蒙り、黄金の四目、玄衣朱裳、戈を執り盾を揚げ、百隸を帥ゐて之を毆る。郷人群然として出でゝ觀る。葢し禮を制する者深意有り。
伏陰愆陽、結んで疫氣を爲す。之を驅除せんと欲せば、人の純陽の氣に資るに若くは莫し。方相氣を作して率先し、百隸之に從ふ。状は恠物のごとく然り。闔郷の老少、雜遝し聚まり觀て、且つ駭き且つ咲ふ。是に於て陽氣四發して、疫氣自づから能く消散す。
乃ち闔郷の人心に至るも、亦因りて以て懽然として和暢し、復た邪慝の内に伏鬱すること無し。葢し其の戲に近き處、是れ其の妙用の在る所なるか。

73)  治安ちあんひさシケレバ樂事らくじやうやキハいきほしかルナリ也。勢ヒノ之所おもむすなはてんナリ也。ごと士女しぢよあつマリよろこビテ飲讌いんえん歌舞かぶスルガ在在ざい〳〵これもとヨリカラ禁止きんし
しかルヲすなはヒテきんズレバすなは人氣じんき抑鬱よくうつシテ、無發洩はつえいスル、必ふくシテ邪慝じやとくかくレテ凶姦きようかんあるいむすンデ疾疢しつちん毒瘡どくさう。其がいことはなはダシ
まつりごとまさ しん-しやく人情にんじやう、爲これ操縱さうじゆうきん不禁ふきんかん使レヲシテいた過甚くわじんまたおもむとき之政しかリト
治安日久、樂事漸多、勢然也。勢之所趨、即天也。如士女聚懽、飲讌歌舞、在在有之。固不可得而禁止。
而乃強禁之、則人氣抑鬱、無所發洩、必伏爲邪慝、藏爲凶姦、或結爲疾疢毒瘡。其害殊甚。
爲政者但當斟酌人情、爲之操縱、置之於禁・不禁之間、使其不至於過甚。是亦赴時之政爲然。
治安日久しければ、樂事漸く多きは、勢ひ然るなり。勢ひの趨く所は、即ち天なり。士女聚まり懽びて、飲讌歌舞するがごとき、在在之有り。固より得て禁止すべからず。
而るを乃ち強ひて之を禁ずれば、則ち人氣抑鬱して、所發洩する無く、必ず伏して邪慝と爲り、藏れて凶姦と爲り、或は結んで疾疢毒瘡と爲る。其の害殊に甚だし。
政を爲す者は但だ當に人情を斟酌し、之が操縱を爲し、之を禁・不禁の間に置き、其れをして過甚に至らざらしむべし。是れ亦時に赴く之政は然りと爲す。

74)  人心じんしんカラカル歡樂くわんらく發揚はつやうスルところゆゑ王者わうじやヅレバおこシテがくをし使人心ヲシテスルたのシンデいたいんやはラギテ一レながルヽニふううつぞくかはレドモすなは邪慝じやとく矣。
當今たうこんつたフル雅俗がぞく樂部がくぶいへどならビニシトうつふうフルぞくよう、而士君子しくんしスモまた不可ふかナルコトいたツテハごとキニ坊間ばうかん詞曲しきよくおほ滛哇いんあい巴歈はゆ、有リテそんuえきキテハこれすなはキ鄙とひ男女だんぢよ、無セテ歡樂發揚
いきほまたカラしやく-ていたとフレバこれやまひ發揚はつやうおもてナリ也、抑鬱よくうつうらナリ也。テバすなは、不ルナリカラすく也。不しばらゆるクシ、以ふせグニ内攻ないこうスルヲまつりごと之所ナリよろシク
人心不可無歡樂發揚處。故王者出世必作樂以ヘ之、使人心有所寄、樂不至滛、和不至流。風移俗易、斯無邪慝矣。
當今所傳雅俗樂部、雖並無移風易俗之用、而士君子爲之亦無不可。至如坊間詞曲、多是滛哇巴歈、有損無u。但舍此則キ鄙男女、無所可寄以歡樂發揚。
勢亦不可繳停之。譬ゥ病、發揚表也、抑鬱裏也。擊表則入裏、不可救也。不若姑緩其表、以防内攻。此爲政者之所宜知。
人心は歡樂發揚する處無かるべからず。故に王者世に出づれば必ず樂を作して以て之をヘへ、人心をして寄する所有り、樂しんで滛に至らず、和らぎて流るゝに至らざらしむ。風移り俗易れども、斯ち邪慝無し。
當今傳ふる所の雅俗の樂部は、並びに風を移し俗を易ふる之用無しと雖も、士君子之を爲すも亦不可なること無し。坊間の詞曲のごときに至つては、多く是れ滛哇巴歈、損有りてu無し。但だ此を舍きては則ちキ鄙の男女、寄せて以て歡樂發揚すべき所無し。
勢ひ亦之を繳停すべからず。ゥを病に譬ふれば、發揚は表なり、抑鬱は裏なり。表を擊てば則ち裏に入り、救ふべからざるなり。姑く其の表を緩くし、以て内攻するを防ぐに若かず。此れ政を爲す者の宜しく知るべき所なり。

75)  人君じんくんまさ 士人しじんヲシテ射騎しやき刀矟たうさくけだ進退しんたい驅逐くちく坐作ざさ擊刺げきし使心身しんしんヲシテおほイニ一レ發揚はつやうスルルノミナラ一レわすらん、而またおい政理せいりたす
人君當令士人常遊射騎刀矟之技。葢其進退驅逐、坐作擊刺、使人心身大有所發揚。是不但治不忘亂、而又於政理有補。
人君當に士人をして常に射騎刀矟の技に遊ばしむべし。葢し其の進退驅逐、坐作擊刺、人の心身をして大いに發揚する所有らしむ。是れ但だ治に亂を忘れざるのみならず、又政理に於て補け有り。

76)  古樂こがくあたほろがくマルいづレノはたシテさきンズルカ聖人せいじん歟。リテツコト於聖人のちおこリシナラバすなはすでクシテ、而其おこいづクンゾひとたもタン久遠きうゑん。聖人とく精英せいえいはつシテすなはかうむラセ管絃くわんげんとゝの簫磬せうけい使ムルハヲシテごとクナラ一レしん-しやスルガすなは感召かんせう、以テナリぐうスルヲこゝ也。
いまルコトせいすでとほつたフルあら。其ようやいた差繆さびゆうつひほろビンモまた理勢りせい必然ひつぜんナリせうつたハルせい、孔子ふかかなこゝろしかレドモおそラクハすであらザルヲ當時たうじまつたキニ遺音ゐおんレドモかんゼシムルニ一レ、而いままたつひほろベリ矣。
およ天地間てんちかん事物じぶつ生者せいしや金鐵きんてつまためついはンヤぐうスルものたもタンヤ久遠乎。ゆゑいは、古樂いたリテハ元聲げんせい太和たいわそんスル於天地人心じんしんすなはさきンズルモ乎聖人おくルヽモ乎聖人いまかつ始終しじゆうスルコト焉。レモカラ
古樂不能不亡。樂其始於何世。果前乎聖人歟。若有待於聖人而後作、則其人既亡、而其所作安能獨保久遠。聖人コ之精英、發而爲樂。乃被之管絃、諧之簫磬、使聽者如親炙之、則樂之感召、以其コ之寓於此也。
今去聖既遠、傳之者非其人。其漸致差繆、遂以亡、亦理勢之必然。韶之傳於齊、孔子深契於心。然恐已非當時之全。但其遺音尚足以感人、而今亦遂亡矣。
凡天地間事物、生者皆死、金鐵亦滅。況乎寓於物者、能保久遠乎。故曰、古樂不能不亡。但至元聲太和存於天地人心者、則前乎聖人、後乎聖人、未嘗有始終焉。是亦不可不知。
古樂は亡びざる能はず。樂は其れ何れの世に始まる。果して聖人に前んずるか。若し聖人を待つこと有りて後に作りしならば、則ち其の人既に亡くして、其の作す所安くんぞ能く獨り久遠を保たん。聖人のコの精英、發して樂と爲る。乃ち之を管絃に被らせ、之を簫磬に諧へ、聽く者をして之に親炙するがごとくならしむるは、則ち樂の感召、其のコの此に寓するを以てなり。
今聖を去ること既に遠く、之を傳ふる者は其の人に非ず。其の漸く差繆を致し、遂に以て亡びんも、亦理勢の必然なり。韶の齊に傳はる、孔子深く心に契ふ。然れども恐らくは已に當時の全きに非ざるを。但だ其の遺音は尚ほ以て人を感ぜしむるに足れども、今亦遂に亡べり。
凡そ天地間の事物、生者は皆死し、金鐵も亦滅す。況んや物に寓する者の、能く久遠を保たんや。故に曰く、古樂は亡びざる能はずと。但だ元聲太和の天地人心に存する者に至りては、則ち聖人に前んずるも、聖人に後るゝも、未だ嘗て始終すること有らず。是れも亦知らざるべからず。

77)  一氣息いつきそく一笑語いつせうご、皆がくナリ也。一擧手いつきよしゆ一投足いつとうそく、皆れいナリ也。
一氣息、一笑語、皆樂也。一擧手、一投足、皆禮也。
一氣息、一笑語も、皆樂なり。一擧手、一投足も、皆禮なり。

78)  をさムルニくにくだところ閫内こんないきん滛靡いんびはぶクヲ冗費じようひもつと先務せんむ
爲邦下手處、在閫内之治。禁滛靡、省冗費、最爲先務。
邦を爲むるに手を下す處は、閫内の治に在り。滛靡を禁じ、冗費を省くを、最も先務と爲す。

80)  人君じんくん閨門けいもんこと好歹かうたい外人ぐわいじんツテひそカニゆゑほつセバたゞ風俗ふうぞくあつクセントヘ化けうくわ、必コスもとゐこゝ
人君閨門之事、其好歹、外人能識而竊議之。故欲正風俗、敦ヘ化、必起基於此。
人君閨門の事、其の好歹は、外人能く識つて竊かに之を議す。故に風俗を正し、ヘ化を敦くせんと欲せば、必ず基を此に起こす。

81)  人主じんしゆごとことひそカニみづかれいスレバすなは威嚴ゐげんレバ有司いうし、則げん-たん
人主毎事私自令、則少威嚴、歴有司、則人嚴憚之。
人主事毎に私かに自ら令すれば、則ち威嚴を少き、有司を歴れば、則ち人之を嚴憚す。

82)  不シテしん大臣だいじんげん、而信左右さいう之言、不シテ男子だんし之言、而聽婦人ふじん之言庸主ようしゆしか
不信大臣之言、而信左右之言、不聽男子之言、而聽婦人之言。庸主皆然。
大臣の言を信ぜずして、左右の言を信じ、男子の言を聽かずして、婦人の言を聽く。庸主は皆然り。

83)  下情かじやう下事かじおなジカラきみタルもの、下情ニハレドモカラつう、下事ニハすなはズシモ
下情與下事不同。君人者、下情不可不通、下事則不必通。
下情は下事と同じからず。人に君たる者、下情には通ぜざるべからざれども、下事には則ち必ずしも通ぜず。

84)  くにレバみち、則大臣ゆづけん。權リテとく、不ちから。邦ケレバ道、則君與大臣あらそ。權リテ於力、不於コ。權在レバ於コ、則はなかみ。權在レバ於力、則つひしもゆゑスハまつりごとテスルヲコ・れいたつとシト
邦有道、則君與大臣讓權。權在於コ、不在於力。邦無道、則君與大臣爭權。權在於力、不在於コ。權在於コ、則權不離於上。權在於力、則權遂歸於下。故爲政、唯以コ・禮之爲尚。
邦に道有れば、則ち君大臣と權を讓る。權はコに在りて、力に在らず。邦に道無ければ、則ち君大臣と權を爭ふ。權は力に在りて、コに在らず。權コに在れば、則ち權は上を離れず。權力に在れば、則ち權は遂に下に歸す。故に政を爲すは、唯だコ・禮を以てするを之れ尚しと爲す。

85)  大臣だいじんろうスルけんふう、多リシテ幼主えうしゆコル。權ひとタビしもうつレバ、不カラをさしゆとしすでちやうズレドモよう虚器きよき沿襲えんしふシテセバ、則うれヘヲのこ後昆こうこん矣。大臣レバすなはひとキノミ耳。
大臣弄權之風、多自幼主而起。權一下移、不可復收。主年既長、仍擁虚器、沿襲成風、則患遺後昆矣。但大臣得其人、則獨無此患耳。
大臣の權を弄する之風は、多く幼主よりして起こる。權一たび下に移れば、復た收むべからず。主年既に長ずれども、仍ほ虚器を擁し、沿襲して風を成せば、則ち患へを後昆に遺す。但だ大臣に其の人を得れば、則ち獨り此の患へ無きのみ。

86)  タル托孤たくこにん者、およベバ孤主こしゆとしちやうズルニすなはまさ かへけんきみ、以みづか退避たいひすなは君臣くんしんふたつながまつたカラン伊尹いゐんいはしんカレト寵利ちようりルコト成功せいこう阿衡あかう實踐じつせんげんニシテ萬世ばんせい大臣だいじん龜鑑きかんナリ也。
當托孤之任者、迨孤主年長、則當早還權於君、以自退避。乃能君臣兩全。伊尹曰、臣罔以寵利居成功。是阿衡實踐之言、萬世大臣之龜鑑也。
托孤の任に當たる者、孤主年長ずるに迨べば、則ち當に早く權を君に還し、以て自ら退避すべし。乃ち能く君臣兩ら全からん。伊尹曰く、臣寵利を以て成功に居ること罔かれと。是れ阿衡實踐の言にして、萬世大臣の龜鑑なり。

87)  着眼ちやくがんケレバすなはえだわかれ
着眼高、則見理不岐。
着眼高ければ、則ち理を見て岐せず。

88)  當今たうこん毀譽きよおそルヽニ後世こうせい之毀譽一身いつしん得喪とくさうおもんぱかルニ子孫しそん之得喪
當今之毀譽不足懼、後世之毀譽可懼。一身之得喪不足慮、子孫之得喪可慮。
當今の毀譽は懼るゝに足らず、後世の毀譽は懼るべし。一身の得喪は慮るに足らず、子孫の得喪は慮るべし。

89)  すでスルものまさクルようすでグルこと、爲まさ きたラントかゞみ
已死之物、爲方生之用、既過之事、爲將來之鍳。
已に死する之物は、方に生くる之用と爲り、既に過ぐる之事は、將に來らんとする之鍳と爲る。

90)  人ルハ、皆いたづラニルナリ也。すべかラク おいこゝおも宇宙うちゆう無窮むきゆうがい乙亥いつがい中秋ちゆうしう月下げつかろく。〕
人看月、皆徒看也。須於此想宇宙無窮之概。〔乙亥中秋、月下録。〕
人の月を看るは、皆徒らに看るなり。須らく此に於て宇宙無窮の概を想ふべし。〔乙亥中秋、月下に録す。〕

91)  せまリテ於不ルニ一レムヲ、而のちはつスルこれそとはなナリ也。
薄於不得已、而後發ゥ外者、花也。
已むを得ざるに薄りて、後ゥを外に發する者は、花なり。

92)  布置ふちよろシキヲ、而不安排あんばい山川さんせんナリ也。
布置得宜、而不假安排者、山川也。
布置宜しきを得て、安排を假らざる者は、山川なり。

93)  人すべかラク まも地道ちだう。地道ルノミ敬順けいじゆんニシテクルニてん而已。
人須守地道。地道在敬順承乎天而已。
人は須らく地道を守るべし。地道は敬順にして天を承くるに在るのみ。

94)  耳目じもく口鼻こうび四肢しし百骸ひやくがいおの〳〵まもしよく、以こゝろしたがフナリてん也。
耳目口鼻、四肢百骸、各守其職、以聽乎心、是地順乎天也。
耳目口鼻、四肢百骸、各其の職を守り、以て心に聽く、是れ地の天に順ふなり。

95)  使ムルヲシテてん、天使せしムルナリ也。使ムルヲシテしたがこゝろ、心使せしムルナリ也。いつナリ也。
使地能承乎天者、天使之也。使身能順於心者、心使之也。一也。
地をして能く天を承けしむる者は、天之を使むるなり。身をして能く心に順はしむる者は、心之を使むるなり。一なり。

96)  グレバ百物ひやくぶつみな來處らいしよ軀殻くかくヅルモ父母ふぼまた來處ナリ也。いたリテハこゝろすなは來處いづクニカわれいは、軀殻地氣ちき精英せいえいニシテツテ父母あつ。心ナリ也。軀殻ツテ、而天ぐうこれ。天寓シテ知覺ちかく、天はなレテ而知覺。心之來處すなは太虚たいきよレナルノミ已。
擧目百物皆有來處。軀殻出於父母、亦來處也。至於心、則來處何在。余曰、軀殻是地氣之精英、由父母而聚之。心則天也。軀殻成、而天寓焉。天寓而知覺生、天離而知覺泯。心之來處、乃太虚、是已。
目を擧ぐれば百物皆來處有り。軀殻の父母に出づるも、亦來處なり。心に至りては、則ち來處何くにか在る。余曰く、軀殻は是れ地氣の精英にして、父母に由つて之を聚む。心は則ち天なり。軀殻成つて、天焉に寓す。天寓して知覺生じ、天離れて知覺泯く。心の來處は、乃ち太虚、是れなるのみ。

97)  自然しぜんかたちむす-體質たいしつ。體質すなはあつマリナリ也。氣人人ひと〴〵ことナリゆゑ體質また人人おなジカラもろ〳〵思惟しゐ運動うんどう言談げんだん作爲さくゐスルおの〳〵したがツテ之所一レクルはつ
われしづカニシテさつスルニせうすなは字畫じくわく工藝こうげいだい事業じげふ功名こうみやう、其あとごとクシテ之所一レむすこれ。人少長せうちやうリシテ童稚どうち面貌めんばうやうやちやうすでズルヤ也、およはつスルあとそと者、シテ一氣いつきでう-たつスルコトごと體軀たいく長大ちやうだいニシテルガ一レ也。ゆゑルモ字畫工藝、もしクハ結搆けつこうスル堂室だうしつ園池ゑんちまたさう-けん氣象きしやう何如いかん
氣有自然之形、結成體質。體質乃氣之聚也。氣人人異。故體質亦人人不同。ゥ其所思惟運動、言談作爲、各從其氣之所稟而發之。
余靜而察之、小則字畫工藝、大則事業功名、其迹皆如其氣之所結而爲之形。人之少長、從童稚之面貌而漸以長。既其長也、凡發迹於外者、推一氣而條達之、如體軀之長大不已也。故觀字畫工藝、若其所結搆堂室園池、亦可以想見其人氣象何如。
氣は自然の形有り、體質を結び成す。體質は乃ち氣の聚まりなり。氣は人人に異なり。故に體質も亦人人に同じからず。ゥ其の思惟運動、言談作爲する所、各其の氣の稟くる所に從つて之を發す。
余靜かにして之を察するに、小は則ち字畫工藝、大は則ち事業功名、其の迹皆其の氣の結ぶ所のごとくして之が形を爲す。人の少長も、童稚の面貌よりして漸く以て長ず。既に其の長ずるや、凡そ迹を外に發する者、一氣を推して之を條達すること、體軀の長大にして已まざるがごとし。故に字畫工藝、若くは其の結搆する所の堂室園池を觀るも、亦以て其の人の氣象何如を想見すべし。

98)  せいおなジケレドモしつことナリ。質ナルハをしヘノ之所ナリリテまうクル也。性ジキハ、ヘヘノ之所ナリリテ也。
性同而質異。質異、ヘ之所由設也。性同、ヘ之所由立也。
性は同じけれども質は異なり。質の異なるは、ヘへのよりて設くる所なり。性の同じきは、ヘへのよりて立つ所なり。

99)  人君じんくんもつ社稷しやしよくおもシトしかレドモ人倫じんりんこと於社稷ヨリモ。社稷クトモ、人倫カラ
人君以社稷爲重。而人倫殊重於社稷。社稷可棄、人倫不可棄。
人君は社稷を以て重しと爲す。而れども人倫は殊に社稷よりも重し。社稷は棄つべくとも、人倫は棄つべからず。

100)  あるいうたが成王せいわう周公しうこうせいスルハ三監さんかんあらズヤンジ社稷かろンズルニ人倫われおも、不しか三叔さんしゆくケテ武庚ぶかうそむレハすなはキシナリ文・武ぶんぶ矣。成王・周公もの、不シテメニ文・武のぞつみ、而ことさラニゆるシテくみセンヤあく乎。すなはンジタルナリ人倫
或疑、成王・周公征三監、非重社稷輕人倫乎。余謂、不然。三叔助武庚以叛。是則叛於文・武矣。爲成王・周公者、不爲文・武討其罪、而故縱之以黨其惡乎。即仍是重人倫矣。
或は疑ふ、成王・周公の三監を征するは、社稷を重んじ人倫を輕んずるに非ずやと。余謂ふ、然らず。三叔武庚を助けて以て叛く。是れは則ち文・武に叛きしなり。成王・周公たる者、文・武の爲めに其の罪を討かずして、故らに之を縱して以て其の惡に黨せんや。即ち仍ほ是れ人倫を重んじたるなりと。
51
○ 社稷之臣−国家に仕える臣下。ここは幕府の重臣を指すか。
○ 應機−臨機応変の処置をとる。

52
○ 同體一氣−血縁で気心が通じ合うこと。
○ 温補藥味−冷えを防ぐ薬方や食餌を摂ること。
○ 一般−同様、同じ。
○ 王制−『禮記』王制篇。「五十始衰、六十非肉不飽、七十非帛不煖、八十非人不煖、九十雖得人不煖矣。」
○ 膚嫗−膚を温めること。「煦嫗」の用例もある。

(53
○ 狂酗−乱酔、酒乱。
○ 瞑眩−音「メンゲン」。眩暈(めまい)

56
○ 機緘−機運の変化消長の働き。生育の仕組みというほどの意。

57
○ 多少の−多くの。

58
○ 變故−変事。
○ 拂逆−ままならぬこと。
○ 老く−老熟する。
○ 砥礪−砥ぎ磨く。努め励む。

60
○ 語ぐ−告げ知らせる、教戒する。次の章に「語(かた)る」の例があり、そのようにも読める。

64
○ 商辛−殷の帝辛、紂王。
○ 微・箕・比干−微子・箕子・比干。いずれも紂王の身内。
○ 殄−尽くす、絶つ、滅ぼす等と読める。

65
○ 爵祿−爵位と俸禄。

67
○ 遏む−防ぎ止める。防遏(ぼうあつ)する。

68
○ 自欺欺人−「欺人亦是自欺、此又是自欺之甚者。」(『朱子語類』第十八)、「夫妄言者、爲自欺身、亦欺他人。」(『法苑珠林』巻七五)
○ 一套事−一揃いの事柄。本質的に同じもの。

69
○ 不入−不容(容れられず)か。

70
○ 挾−介在する。持つ。
○ 忿疾−怒ったり憎んだりする気持ち。

70
○ 虚懷−虚心坦懐。

71
○ 暢發−のびのびと発揮する。
○ 收斂−引き締まる。

72
○ 方相氏−「掌蒙熊皮、黄金四目、玄衣朱裳、執戈揚盾、帥百隸而時難、以索室驅疫。」(『周礼』夏官司馬)
○ 儺−前記「時(こ)れ難(だ)す」の「難」(元来の音は「ダン」)に通じ、鬼を遣(や)らう意。
○ 玄衣朱裳−黒の上衣と赤の裳裾。
○ 百隸−大勢の僕(しもべ)
○ 毆る−駆る。打つ。
○ 伏陰愆陽−隠れていた陰の気と誤った陽の気。
○ 資る−頼る。
○ 闔郷−村中。
○ 雜遝−雑踏。
○ 四發−四方に起こる。
○ 和暢−和らいでのんびりすること。
○ 邪慝−邪気が内に潜むこと。
○ 伏鬱−隠れて結ぼおる、内に籠もって発散しないこと。
○ 戲−遊び。子供騙し。

73
○ 飲讌−酒盛り。
○ 在在−在在所所。到る所。
○ 發洩−発散。
○ 疾疢−熱病、疾病。
○ 毒瘡−悪性の腫れ物。
○ 赴時−時世に即応する。

74
○ 滛−淫らなこと。
○ 坊間−市街。民間。
○ 滛哇−淫らな音楽。
○ 巴歈−巴蜀の歌曲。俗曲を指したか。
○ 繳停−矰繳(そうしゃく)は「いぐるみ」。鳥を矰で射て身動きさせないように止めることか。
○ 姑−とりあえず。差し当たって。

75
○ 刀矟−刀と戟。戟は薙刀等か。
○ 坐作−座ることと立つこと。立居振舞。
○ 治不忘亂−「治にいて亂を忘れず」(「治而不忘亂」〔『周易』繋辭下伝〕)の心構え。
○ 補−補い。助け。

76
○ 親炙−親しく接すること。
○ 感召−感動を呼ぶこと。
○ 差繆−誤り。食い違い。
○ 韶之傳於齊−「子在齊聞韶、三月不知肉之味。曰、不圖爲樂之至於斯也。」(『論語』述而篇)。「子謂韶、盡美矣、又盡善也。」(同・八佾篇)
○ 寓於物者−物に宿るもの。楽器に依存する音楽のこと。
○ 元聲太和−未詳。天地人心にもと備わった諧調、天地自然の音楽というほどの意か。
○ 始終−始めと終わり。

78
○ 謙冲−謙譲で虚心坦懐。冲には「冲静」の語がある。

79
○ 閫内−宮中、城内。「閫」は宮城の意。

80
○ 閨門−家庭内。奥向き。
○ 好歹−善し悪し。
○ 外人−他人。部外者。

81
○ 嚴憚−恐れ憚る。「厳」も憚る意。

82
○ 左右−側近。近臣。
○ 聽く−聞き入れる。
○ 庸主−凡庸な人主。

83
○ 下情−世間の事情。
○ 下事−世間的用事。

84
○ 權を讓る−權力を譲り合う。分担して政治を行う。

85
○ 仍ほ−依然として。
○ 虚器を擁す−実権を持たない地位に甘んじる。
○ 沿襲−古い慣行に従う。
○ 後昆−後世。後裔、子孫。

86
○ 托孤之任−幼君の摂政を務めること。
○ 成功−立身して獲得した地位。
○ 阿衡−宰相。殷の宰相であった伊尹を指す。

87
○ 岐−決断に迷う。判断がぶれる。

88
○ 得喪−利害得失。

89
○ 方に−現に。ちょうど今。
○ 鍳−手本。

90
○ 概−趣。態様。
○ 乙亥−文化一二年。一斎四四歳。

93
○ 地道−「順於天、地道也。」(『京氏易傳』巽卦)

94
○ 職−職分。割り当てられた働き。
○ 聽く−聞き入れ、従う。

95
○ 一也−同じものである。

96
○ 來處−因って来たるところ。原因。
○ 軀殻−体。心を抜いた身体そのもの。
○ 泯−尽く、滅ぶ。
○ 太虚−虚空。気の始原。宇宙の根源。『荘子』外篇に出る。

97
○ 稟く−天から受け取る。天命を承けて生じる。
○ 字畫−文字の書き方。
○ 少長−少きより老成に至るまで。
○ 條達−伸びる。暢達。
○ 想見−想像する。

98
○ 所由設−施すゆえん。
○ 所由立−成り立つゆえん。

99
○ 社稷−国家。

100
○ 成王・周公−周の武王の弟で、成王を輔弼した。
○ 三監−武王が紂王の子の武庚を立てて三人の弟に監督させたが、武王の死後、叛逆したので周公が成王を助けて討伐した。
○ 三叔−三監を成王から見た語。

(本文はtaiju生作「漢文エディタ」原文よりHTMLに変換したものである。原文は後日利用の便を考えて、このファイルに含めてある。又、上下のコラムを連動させるスクリプトも入っている。)